先週、日経平均株価が7ヵ月ぶりに1万5千円台を割り込みました。原油高から米国景気の減速懸念が高まり、それをきっかけに世界同時株安の展開となったのです。
米国経済は原油高に対して脆弱な体質を持っています。例えば、国土が広い米国では、自動車1台あたりのガソリン消費量が日本の約3.4倍に上っていています。また、日本に比べて消費が旺盛なことから、原油高に伴うコスト上昇をモノやサービスの価格に上乗せしやすく、そのためインフレ懸念が高まりやすいのです。インフレ懸念が強まれば、FRBは追加利上げによってモノやサービスに対する消費需要を抑えなければならなくなります。しかし、その結果、米国経済の実力以上の水準まで金利を引き上げることになれば、それが将来的に景気を大きく落ち込ませる要因となりかねません。
米国景気が減速すれば、米国への輸出で好景気を謳歌している国々の経済活動にも影響が出ます。そのため、米国発の世界同時株安となっているのです。
最近の原油高は、イランの核開発問題が背景にあるといわれていますが、これは元をたどれば米国のイラク政策の失敗によるものです。サダム・フセイン時代、シーア派支配のイランとスンニ派支配のイラクは敵対関係にありました。そのため、イラク人のシーア派指導者はイランに亡命していました。その後、イラクでフセインが権力の座を追われシーア派が実権を握るに至り、イラクはイランにとって敵対国から友好国に変わりました。同時に、フセインという脅威がなくなったことから、イランは米国に対して強硬姿勢を鮮明にすることができるようになったのです。フセインをやっつければ中東問題は解決するという単純な発想でイラク戦争を始めた米国政権の思惑は完全に破綻してしまいました。
今後、イラク情勢の泥沼化によって米国の財政赤字はさらに拡大し、ドル下落リスクが高まることになりそうです。ブッシュが政権を握って以来、米国政府の歳出は大幅に拡大しています。2001年度の歳出は1.8兆ドルでしたが、2007年度には2.8兆ドルと、6年間で5割以上増加しています。そして、その大部分をイラク戦費を含む国防費が占めています。しかし、今、米国では反戦運動が政治的盛り上がりを欠いていて、主だった次期大統領候補者もイラク撤退に反対しています。そのため、テロとの戦いによって高水準の国防支出がしばらく続くことから、米国の財政赤字はハイペースで拡大し、ドル下落リスクがある日突然、高まることになりそうです。
このような情勢の中、日銀はゼロ金利解除のタイミングを探りあぐねているようです。これまでは、小泉首相が花道を飾るために7月にも政府が「デフレ脱却宣言」を出し、それを受けて日銀がゼロ金利を解除するというのがメインシナリオでした。ところが、このところの株価下落によって雲行きがどうも怪しくなってきました。ただ、このタイミングを逃すと9月の自民党総裁選挙、11月の米国議会中間選挙と政治的不透明感が強まって、だんだん動きづらくなります。こうした日程上の制約を考慮すると、日銀としては何としても早めに利上げに踏み切りたいところです。利上げの幅は0.25%が有力ですが、それが7月に実施されるかどうかを占う上で、今後1カ月間は、株価から目が離せません。
久しぶりの登場ですね。今の複雑な経済情勢を簡潔にまとめていただき、ありがとうございます。この数ヶ月の空白の期間、本当にいろいろな問題が噴出しました。村上ファンド事件は、ライブドア以上に市場に影響を与えていますし、イラクでのザルカウィ容疑者殺害でのイラク情勢の今後も気になりますが、それ以上に、ガザ北部の海水浴場で起きたイスラエル軍の誤射と思われる事件でパレスチナ問題がどうなるかという点は注目に値します。
だいぶ話がずれてしまいました(笑)。
前回のコラム最後に、「米国景気の後退や米国長期金利急騰による株価下落などはいつ起こってもおかしくない状態にあり、これらが現実のものとなれば、この金利シナリオが実現する時期も変ってきます。しかし、今回の量的緩和解除によって金利上昇に向けて大きく舵が切られたことだけは間違いありません。」と書かれています。今回の市場の動揺は、「いつ起こってもおかしくない」ことが起きたということになります。
Seijiさんの話のポイントは原油高からスタートしていますが、問題はなぜ原油が高くなったか?ですね。この点について、イランの核開発問題を指摘されていますが、この問題の前から原油価格は上昇していました。その根拠は、中国等の経済新興国の消費量の増大です。その後、中南米で反米政権が樹立されたこともあります。どれが正解というわけではなく、さまざまな要因が複合して起きたことは間違いないでしょうね。その底流にあるのは、国際経済・政治に大きな変化が生じているということです。さらにデリバティブの発達といったお金の流れの変化もあるのかもしれませんが、そのようなさまざまな波が、経済のベースとなる石油価格が高騰を招いたということでしょうか。
書いていくとキリがありませんが、このような変化のときに、日銀はなぜ量的緩和解除したのか?この問題をどこかで考えてみたいと思います。
いずれにしても、2005年中盤から起きた株の高騰は、調整の時期にあるとは言えそうで、ちょっと冷静に対応すべき時期であることは間違いないようです。
Seijiさん、お仕事がお忙しいようですが、また機を見ての原稿を期待しています。
3月9日、日銀は量的緩和政策を解除し、金利の上げ下げによって金融調節を行う平時の金融政策に戻ることを決めました。量的緩和政策の目的や効果については本レポート2005年5月25日号で振り返っていただくとして、今一番気になるのは、「いつ頃から、どれぐらいの幅で金利が上がっていくのか?」ということです。そこで今後の金利動向を簡単にイメージしてみましょう。
結論から先に言うと、現状の景気回復ペースが続くとすれば、今年10月〜12月の間に日銀は政策金利(コールレート)を現在のゼロ金利から0.25%まで引き上げる。その後、3ヵ月〜6ヵ月ごとにさらに0.25%ずつ2回〜3回引き上げて政策金利を0.75%〜1.00%に誘導するのではないでしょうか。
なぜ、政策金利が0.75%〜1.00%かといえば、消費者物価指数の前年比上昇率が1%弱の水準でしばらく推移すると予想されるからです。そして、日銀にとって中立的つまり居心地のよい政策金利の水準は消費者物価と同程度ということだからです。この点について、3月9日の日銀の公式コメント(http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/k060309b_f.htm)で、日本経済(日銀)にとって1%程度の消費者物価上昇率はインフレでもデフレでもない好ましい水準であると認めています。
日銀としては、物価が落ち着いた状態で景気が拡大しているうちに中立的な金利水準まで政策金利を引き上げ、その後、もし、インフレの兆候が出てくれば更に金利を引き上げ、逆に景気後退のサインが見えれば金利を引き下げて対応したい。実は後者の可能性のほうが高いと思います。というのは景気拡大が既に4年以上続いていることを考えると、近いうちに景気は後退局面を迎える。その場合、日銀は金利を引き下げて対応したいが、ゼロ金利のままでは下げようがない。なので、今のうちに金利を上げて「のりしろ」を確保おきたいのでしょう。
日銀の金利引き上げに連動して、今年の年末辺りから預金金利も上がってきそうです。過去の例を参考にすると、政策金利が0.25%となれば、普通預金0.10%、1年定期預金0.20%程度に落ち着く可能性が高い。また、政策金利が1.00%まで上がれば、普通預金0.30%、1年定期預金0.70%程度といったところでしょう。ただ、長期金利(10年国債利回り、現在1.6%近辺)の水準は政策金利が1.00%に上がっても、2.00%程度までの小幅な上昇にとどまるのではないでしょうか。したがって、住宅ローン金利の上げ幅は2年固定金利や3年固定金利など固定金利期間が短いほうが、10年固定など固定金利期間が長いものよりも上昇幅が大きくなりそうです。
以上はあくまで現状の景気回復ペースが続くという前提での予想です。米国景気の後退や米国長期金利急騰による株価下落などはいつ起こってもおかしくない状態にあり、これらが現実のものとなれば、この金利シナリオが実現する時期も変ってきます。しかし、今回の量的緩和解除によって金利上昇に向けて大きく舵が切られたことだけは間違いありません。
お忙しい中、コメントありがとうございます。今回の日銀の政策変更は、政治との関係もあり、またマスコミ露出も大きくて、金融関係者以外の方も注目していたという特徴があったと思います。
昨年暮れから、今年にかけて、国内にいろんな問題が起きてきました。これは突然起きたというよりも、今まで支えてきたものが外れて起きてしまったような気がします。ということは、まだまだあちこちで波乱が起きる可能性があります。何が起きても驚かないような心構えが必要ですね。
では、確定申告の期限が目の前に迫って、大騒ぎですので、この辺で。
中国の人民元切り上げから約1カ月が経過した8月中旬、北京市を訪問し、中国経済の現状を視察してきました。今春には大規模な反日デモが発生したことから当初は一抹の不安もありましたが、現地の治安は至って安定していました。
今、北京のビジネス街では超高層のオフィスビルやマンションの建築ラッシュで、高速道の整備も急速に進み、まさに日本の高度成長時代を彷彿させる光景です。1970年代末の改革開放以来、中国は年平均9%の高成長を遂げてきましたが、2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博もあり、当面は高成長が続く見通しです。
しかし、一方で、人民元切り上げ問題に象徴されるように、中国経済が抱える構造的歪みは拡大していて、これらが顕在化すれば1997年のアジア通貨危機を上回る影響があるといわれています。中国市場の成長力は魅力的なものの、内在するリスクは拡大していて、今、中国ビジネスについて「ワースト(最悪)シナリオは何か」を想定しておくことには意義があると考えます。そこで、今回の視察を通して感じた中国経済の5つの課題について検討します。
■広がる「都市と農村の格差」と人民元改革
北京の日系企業の人々が中国リスクとして真っ先にあげるのが、都市と農村の格差の問題です。中国では、大都市が刻々と発展を遂げる一方で、都市と農村の経済格差はますます広がっていて、最も豊かな上海市と最も貧しい貴州省の所得格差は13対1にも及んでいます。
また、日本では考えられないことですが、中国では農民の社会的地位が低く、彼らには年金や医療保険といった社会保障がないうえに、多くの名目で重い税が課せられています。さらに、農民が都市部に出稼ぎに行っても、税制や子どもの教育など多くの面で差別されるのです。このまま、こうした弱者層に大きな挫折感と絶望感が広がれば、社会の安定を保つことは難しくなります。そこで、中国政府は、「農業、農村、農民」を巡る問題を「三農問題」として優先的に取り組んでいますが、具体的効果が表れるにはしばらく時間がかかりそうです。
このような文脈の中で考えれば、今、人民元の大幅な切り上げは極めて困難という結論になります。というのは、人民元を大幅に切り上げると米国やカナダなどからの輸入農産物が大幅に増加し、価格競争力の弱い内陸部の農村はますます疲弊してしまうからです。そうなれば最悪の場合、全国的な暴動に発展して、何千万人もの難民が日本に押し寄せる事態も想定されます。つまり、人民元の大幅切り上げによって最も困るのは、日本かもしれないということです。
通貨当局である中国人民銀行は、貿易摩擦を背景にした欧米からの人民元切り上げ圧力と三農問題という、相反する難題を抱えながら、通貨政策を小出しにして、時間稼ぎを続けざるを得ないのではないでしょうか。
■銀行の不良債権問題と国有企業改革
金融機関を通じて企業や個人に資金が効率的に融通されることは、健全な経済発展の必要条件です。中国では、4大商業銀行(中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行)が金融業務で重要な役割を果たしていて、4行を合計した貸出と預金のシェアは、ともに銀行部門全体の6割を超えています。
しかし、日本のメガバンクと異なり、中国の商業銀行は金融機関である前に政府機関です。中国では、80年代以降、銀行が財政の代わりに国有企業の資金源となってきたことから、1995年に商業銀行法ができるまで銀行自身の判断で融資することは困難でした。国有企業向けを中心に投資採算を軽視した融資が行われ、結果として不良債権が膨れ上がってしまったのです。しかし、国有企業サイドの借入れ意識は希薄で「もらったものをいまさら返せと言われても困る」ということになり、結局、政府が公的資金を投入して処理を行っています。そういう意味で、中国の不良債権問題は日本のそれとは性質が異なります。
ただ、国有企業はまだ6千万人以上の雇用を抱えていることから、問題の処理を一気に進めることは困難です。そうした背景から、4大商業銀行の不良債権比率(不良債権残高/資産残高)は2005年3月末で15.0%と、国際的にみれば依然として高い水準にとどまっています。
もし、日本や米国で金融機関がこれだけの不良債権を抱えていれば、いつ金融危機が発生しても不思議ではありません。それにも拘らず中国の金融システムが安定を保っているのは、国民の貯蓄率が高い一方で、預金以外の投資手段が限られていること、そして中国政府が銀行の預金に対して暗黙の保証を提供していることが理由になっています。
しかし、WTO(世界貿易機関)加盟時の公約で、2006年12月から中国国内の銀行業務が外国金融機関に全面的に開放されることになります。もし、高度な金融技術を有する彼らが魅力的な金融サービスを本格展開すれば、財務内容でも金融ノウハウでも劣る4大商業銀行から預金が大量に流出して、金融不安が発生することにもなりかねません。
そうした事態を回避すべく、中国政府は、4行の中でも比較的財務内容がよい中国銀行と中国建設銀行の2行を株式上場させて、金融システムの健全性を内外にアピールしようとしています。現在、この2行は欧米の金融機関からこぞって出資を仰いでいますが、これは増資によって財務基盤を強化し、来年に予定している株式上場に弾みをつける狙いです。果たして両行の上場が成功するかどうか、注目していきましょう。
■整備が待たれる中小企業金融
今回の視察で最も驚いたことは、中国には中小企業が金融市場から資金調達する手段が存在しないということです。毎年15万社が創業するなかで金融機関から資金調達できるのは5%にも上りません。中小企業の資金調達はもっぱら親戚や知人などからの出資に頼っていますが、調達できる額は限定されることから、仮に売上げが増えても資金繰りに窮するようになってしまうため、毎年10万社以上が廃業に追い込まれています。「企業の財務担当者の仕事は、期限にお金を支払わないこと」という笑えない冗談があるくらい、一般に企業の資金繰りは厳しいのです。
こうした背景には計画経済体制の負の遺産として、銀行の民営企業、特に個人企業に対する差別があるといわれています。例えば、国有企業への融資が不良債権化しても、ほとんど責任追及されずに済むのに対し、個人経営企業への貸出が回収不能となった場合には法律によって追求されます。
また、中国の金融市場では、広範な支店網を全国的に展開する4大商業銀行に集まった預金が、他の金融機関に貸し出され、それが企業融資に回るという資金の流れになっています。4大商業銀行の貸出スタンスが他の金融機関にも影響して、結局、中小企業には資金が回らないのです。
このように、中国では地域金融機関が中小企業に融資を行う基盤が整っておらず、地域経済の発展を妨げる障害となっています。しかし、地方における中小企業の発展は雇用問題と三農問題の解決のために不可欠なことから、今後、民間銀行の参入を促す積極的な政策が求められています。
■ニセモノ対策と知的財産権
中国ではニセモノ商品が、消費者の身近なところで広く出回っています。これらは自由市場と呼ばれる露天や繁華街の片隅で売られていて、その種類も日用品から食料品までさまざまです。例えば、音楽・映像のCD・DVDの正規版の定価は60元(1元=約14円)程度ですが、海賊版は5元と圧倒的な安さで大量に出回っているのです。
これに対して中国当局も手をこまねいている訳ではありませんが、ニセモノ商品が溢れるなかで取り締まり担当者の人数が不足していて、まずは、健康を損なう食料品など、社会的被害が大きいニセモノ事件の摘発が優先されています。日系企業の製品にまつわるニセモノは、消費者の健康を損なうものには該当しないとされ、これまで放置されてきたのが実情のようです。
その一方で、ニセモノの存在を逆手にとったマーケティングを行う企業もあります。例えば、連想集団など中国の大手パソコンメーカーは、敢えてWindowsOSを外したモデルも販売しています。海賊版ソフトが当たり前になっている中で、正規版を添付すると、ユーザーに割高感を与えてしまい、売り上げが落ちてしまうためだといわれています。
今、外資系のスーパーやディスカウントストアが消費者の支持を得る中で、大半のニセモノ商品はやがて消えていく運命にあります。しかし、中国に進出する日本企業にとって知的財産権の侵害は中国ビジネスの成否を左右する深刻な問題であり、その対策に頭を痛める状況はしばらく続きそうです。
■反日感情とビジネスリスク
意外なことに、北京で会った日系企業の人々は反日感情の問題をリスクとは捉えていませんでした。日本国内では、反日デモ以来「日中関係は1972年の国交回復以来、最悪の時期に突入した」といった調子で報道されていますが、現地では反日感情の問題はビジネスにほとんど影響していません。
例えば、イトーヨーカ堂は反日デモの最中に中国で7店舗目、北京で5店舗目となる店を、天安門広場から5キロの場所にオープンしましたが、全く混乱はなかったということです。同社は、2003年のSARS発生時に、売り上げを度外視して1時間毎に店内を消毒したところ、北京で唯一安心して買い物ができる店という評判が広がり、それ以来、地元消費者の高い支持を得ています。また、現地では、食料品を中心に日本モドキのネーミングの商品が数多く販売され、さらには日本食が人気となっていることなどを考え合わせると、反日感情がビジネス上問題となるリスクは小さいと思われます。
なお、この機会に中国の愛国教育の実情を確かめておきたいと思い、北京郊外の盧溝橋まで足を伸ばして、愛国教育基地の総本山といわれる中国人民抗日戦争記念館を見学しました。7月7日の全面抗戦勃発記念日(盧溝橋事件の発生日)から戦勝60周年を記念する大型展覧会が開催されていますが、南京大虐殺や七三一部隊による人体実験の情景を生々しく再現した一角は撤去され、最後のコーナーには胡錦濤総書記と小泉首相が握手する写真が大きく掲げられていました。殊更に反日感情を煽る意図が明白な展示物はなくなっていることから、反日デモの反省を踏まえて、中国政府のスタンスも徐々に変化しているように見受けられました。
■まとめ
以上が今回の視察を通して感じた中国経済の課題です。しかし、よく考えてみれば、どの国の経済も構造的問題を抱えています。例えば、日本には700兆円を超える政府債務の問題があり、米国でも年間の経常赤字がかつて例を見ない水準まで拡大し、ドル暴落リスクを抱えています。したがって、中国についても目の前のリスクをあまり過大に捉えるのでなく、それぞれのリスク特性に応じたシナリオを想定して対応していけばよいと考えます。
日本経済は、70年代の二度にわたるオイルショックを契機に産業構造を転換しました。中国経済の発展経路は日本と同じではありませんが、最近の人民元の切り上げを巡る動きは中国経済が従来の輸出主導、外資依存の成長パターンからの転換を迫られていることを示しています。今後10年のうちに、いくつかの紆余曲折を経て、中国はハイクオリティな消費マーケットに変貌していくのではないでしょうか。
この原稿は、9月20日に頂戴していたのですが、私が10月14日の税理士会のプログラムで時間が割けなかったため、なかなかアップできませんでした。少し時間が経ってしまい、鮮度が落ちてしまったことをお詫び申し上げます。
この原稿を書いている10月17日、小泉首相が靖国神社を訪問しました。訪問することの政治的な問題はさておき、今の日本政府が外交政策をどのように考えているか?この前の選挙で明確にされていないだけに、不安を感じるところではあります。特に、世界経済といったものを考えた時に、中国はひじょうに巨大な存在となってきており、この部分を冷静に判断すべき段階であり、政府としてのスタンスが曖昧なままでは、今後の各企業の対応も、非常に難しくなってきていると思われます。
いずれにしても、中国の問題は冷静に考えるべきであり、今回のSeijiさんのように、実際に現地で人と会って、様子を見てくることは重要です。中国との間で直接仕事をしていない方でも、とても大切な内容だと思います。
7月21日、中国は人民元の為替レートの2%切り上げと「通貨バスケット制」導入などの「人民元改革」を発表しました。欧米諸国に対する貿易黒字が拡大していたことから「8月にも切り上げか」という観測が強まっていた矢先だったので、さほど意外感はありません。しかし、これによって人民元をめぐる問題が新たな局面に入ったことは間違いありません。改革の内容についてはっきりしない部分もありますが、まずは速報版として、今回の改革の内容とこれからの影響を検討してみましょう。
■今回の人民元改革のポイント
中国の中央銀行である中国人民銀行(「人民銀行」)が発表した改革の要旨は以下の通りです。
要するに、これまでドルに固定していた人民元レートについて、ユーロや円の動きも反映して決めていこうということです。ただし、あくまでも管理通貨制度の枠組みは維持されます。 これまで中国では管理通貨制度のもとで、有価証券や預金などの「資本取引」も、輸出入などの「経常取引」も、人民元を通じた資金のやり取りは厳格に制限されてきました。これが今回の改革でどう変わるのでしょうか?
■資本取引の管理のしくみ
人民元が切り上げられるとすれば、今のうちに買っておけば確実に儲かると考える方は多いはずです。上海に行って、中国銀行や香港上海銀行で口座を作ると、人民元で預金できます。レートが切り上げられた時点で解約して円に戻せば、為替差益が上げられるはずなのですが、現実にはそんなにうまくはいきません。
というのは、まず、中国では、外貨から両替した人民元であっても、外貨には50%しか戻せないという規制があります。さらに、人民元を中国国内の銀行から海外送金することは認められていません。したがって、人民元で1000万円の預金をしても円には500万円しか戻せないのです。もちろん、5000ドル(約60万円)相当額までの現金は海外に持ち出せますが、そんなことを繰り返していては投資としてペイしません。
また、中国に住んでいる人が海外の株式や債券を買う場合にも当局の事前許可が必要で、実際問題として海外の有価証券への投資はできません。このように、資本取引を行う場合、海外から中国国内の資金流入はほぼ自由なのに対し、海外への資金流出は厳格に制限されてきました。今回の改革でも、これを変更する予定は今のところ発表されていません。
■経常取引の管理のしくみ
次に経常取引についてですが、中国は米国に対して巨額の貿易黒字をあげています。これは、輸入代金支払に伴うドル買いニーズよりも、輸出代金を人民元にするためのドル売りニーズのほうがはるかに強いということです。したがって、市場原理に任せると人民元の対ドルレートは上昇していくはずですが、実際の人民元レートは1米ドル=8.3元辺りの水準で安定的に推移してきました。
その原因は中央銀行によるドルの買い上げ(いわゆる為替介入)にあります。まず、外貨管理条例によって、中国企業は外貨収入(大半はドル)を政府が指定する銀行に売却するよう義務付けられています。そして、銀行は買い取ったドルを、外貨取引センターという銀行間市場を通じて売買するのですが、取引の前日に翌日の取引内容(取引通貨と金額)を政府(外貨管理局)に報告することになっているので、政府は売り買いの状況を事前に把握し、余剰なドルを人民銀行が買い上げて需給を均衡させることができるのです。そのために、市中でドルが余っていても為替レートは動かないということになります。
実は、今回の人民元改革の最大のポイントは、この買い上げ制度の取扱をどうするかです。もし、これを完全にやめるとすれば、今後3ヶ月のうちに人民元レートは2割近く上昇する可能性もあります。しかし、それでは輸出競争力の低下から中国経済に大きなダメージを与えるだけでなく、アジアや、ひいては世界全体の経済が変調をきたしてしまいます。したがって、しばらくは買い上げ制度を残しつつ、国内景気の動向を確認しながら、段階的に人民元レートを切り上げていくという展開がメインシナリオとなりそうです。
■人民元改革の影響
そうした展開を想定した場合、当面の日本の金融マーケットに対しては、為替相場と金利の両面で影響が出ると考えられます。
まず、為替相場についてですが、人民元レートが切り上げられれば、地政学的に最も関係が深いハードカレンシーである日本円の上昇圧力が高まります。投機筋にとっては、郵貯をめぐる政治的不透明感を材料にした円売りは次第に仕掛けづらくなってきました。ただし、人民元切り上げのスピードは緩やかになると予想されるので、100円を割り込むような円高となる可能性は低いと考えます。
金利については、今回の改革によって米国金利上昇が上昇して、米国の景気と株価が調整局面を迎えれば、日本の景気が踊り場から脱却する局面は先送りされ、結果として日銀の量的緩和が解除される時期も遅れると考えられます。中国はこれまで、対米貿易黒字によって急増した外貨準備の大半を米国債に投資して米国に還流してきましたが、今回の改革によって米国債への投資が減少することになれば、米国長期金利が上昇すると予想されるからです。
いずれにしても、今回の改革ですぐに大きな影響が出るというわけではなく、事態は徐々に変化することになりそうです。しかし、人民元を巡る局面がこれまでとは一変したことは間違いなく、後で気づいたときには手遅れという、いわゆる「ゆで蛙」状態にならないよう、当面の状況の変化をしっかりウオッチしていきましょう。
非常に新しい情報をありがとうございます。新聞報道等では、細かな問題点まで話題にならないことも多いですから、あまり浮き足立たないようにしたいものです(振り込め詐欺のネタがまた1つ増えたのでしょうか?)。 茹で蛙ではありませんが、知らない間に身の回りの工業製品は中国製が当たり前になってしまいましたね。この馬鹿でかい国とどうやって付き合っていくか?というのは世界経済の大変重要なテーマです。人の考え方、政治的な面もひじょうに多層的で複雑な国だけに、イスラム同様、Seijiさんご指摘のように、しっかりウォッチしておきたいものです。反日デモが起きたからといって、単純にナショナリズムに浸っていてはいけませんね。冷静に、何事も冷静に、しかし動く時には大胆に。 そして、なによりも、世界はこうやって変化していくということ。いつまでも同じ状況が続くと思うのは人間の錯覚。何事でも大事なことだと思います。
前回のコラムについて、サイトの管理人から「日銀が金融調節を間違うと金融界に混乱が生じる可能性があるということだか、いったいどういうことか一般消費者には分かりづらい」というコメントがありました。実は、これからの日銀の金融政策をウォッチしていくうえで、金融市場がどう反応するかがひとつのポイントになってくるので、この点についてもう少し説明しましょう。
■金融引締めでもあまり上昇しない長期金利
今後の金利動向を考える上での最大のポイントは、金融政策が緩和から引締めに転換する場合の市場金利の動きは、従来とはかなり異なったものになるということです。
90年代前半以前の金利引締め局面を振り返ってみると、日銀が金融引締めに転じると短期金利と長期金利のスプレッドが拡大するというのが典型的なパターンでした。つまり、短期金利と長期金利が同じように上がるのではなく、短期金利よりも長期金利のほうが上昇幅が大きくなり、長期金利をベースにして決まる住宅ローン金利は当然大きく上昇していたのです。
ところが、これからは日銀が金融引締めに転じても長期金利はあまり上昇せず、比較的落ち着いた動きに終始する可能性が出てきました。そうなれば住宅ローン金利も大幅に上昇することは心配しなくてよさそうです。これには大きく3つの要因があって詳細は次に述べますが、要するに90年代前半までとは金融政策をめぐる環境が一変してしまったのです。したがって、過去の金融引締め局面の経験を将来にそのまま当てはめると、判断を大きく誤ってしまうことになるでしょう。
■環境変化の3大要因
90年代後半以降、金融政策に大きな変化をもたらすことになった3つの大きな要因は、1.経済のグローバル化、2.中央銀行の独立性強化、そして3.マクロ経済理論の進歩です。順を追って説明しましょう。
まず、経済のグローバル化によってインフレ圧力が世界的に押さえ込まれていることは周知のとおりです。最近は労働コストが安い中国に投資が集中し、中国で生産された安い製品の輸入急増で米国や欧州で人民元に対する切り上げ圧力が強まっています。日本でも、原油や鉄鉱石など原材料価格の急騰にもかかわらず、安い輸入製品の影響で消費者物価は落ち着いた動きとなっています。また、国内の雇用環境を見るとパートや派遣社員が増加しているので、正社員の給与を多少引き上げても全体の賃金水準は上昇しにくくなっています。その結果、モノの値段やモノを作るためのコストは景気がよくなっても大きく上昇する可能性は低いのです。とすれば、日銀が量的緩和を解除したとしても、その後の金利引き上げの動きはきわめてゆっくりしたものになるでしょう。
つぎに、中央銀行の独立性が強化され、金融経済状況の変化に応じてタイムリーな金融調節が行える環境が整備されてきました。これは当たり前のことのように思われますが、かつては日銀が政策金利を引き上げようとしても政府から待ったがかかったことが何度もありました。しかし、1997年の日銀法改正によって金融政策運営について日銀の独立性が強化され、金融政策の自由度はかなり高まりました。ただ、権限が強まった分、政策の妥当性について金融マーケットに対する説明責任は大きくなっています。
最後に、マクロ経済理論の分野では金融政策運営に関する研究が進み、「新しいケインズ経済学」とよばれる考え方が登場しています。やや専門的になるので内容の説明は省きますが、要するに金融政策が経済活動や物価に与える影響についての分析が進んできたため、確度の高い金融政策を実施できる可能性が高くなってきたということです。詳細については「日銀レビュー2004年12月」(http://www.boj.or.jp/ronbun/04/data/rev04j08.pdf)をご覧ください。
■既に金融引締めに転じた海外諸国の状況
海外では、すでにこうした展開が現実のものになっています。英国、豪州、米国など金融政策が利上げ方向に転換している諸国では、短期金利の上昇にもかかわらず長期金利が安定ないし低下しているのです。英国や豪州では短期金利と長期金利がほぼ同水準にあり、ニュージーランドでは逆に長期金利が短期金利を下回っています。
とりわけ、米国では昨年6月末以来、政策金利が1%から3%まで引き上げられましたが、逆に長期金利は約0.7%低下し、長短金利のスプレッドは大幅に縮小しています。これは「FRBがインフレをうまくコントロールできるだろう」という金融市場の期待の高さを反映したものでしょう。ただ、最近の長期金利低下の背景には、ヘッジファンドの破綻リスクの高まりを反映して資金が米国債市場に流入しているという特殊要因も働いています。
では、短期金利が引き上げられても長期金利は安定した動きを続けるという現象が、日本でも間違いなく起こるのでしょうか?
■今後注目しておきたいこと
日本で注意しなければならないのは、国債市場が構造的問題を抱えているということです。外国人の保有比率が非常に低く、さらに金融機関が大半を保有しているために売り買いのバランスが崩れやすく、ちょっとしたきっかけで売りが殺到して長期金利が急騰するという問題があります。そのため、ある程度魅力のある水準まで長期金利が上昇しても横並び意識が強い投資家からはなかなか買いが入らず、必要以上に金利が上昇してしまい、それが企業の投資意欲に水を差して景気に悪影響を与え、貸出が増えない金融機関が再び国債に買いを入れて長期金利が低下する、といった展開になりやすいのです。
そうした不安定な金利変動を招かないようにするため、日銀は金融市場とのコミュニケーションに今まで以上に気を配ることになるでしょう。つまり、「物価はプラスに転じた後も安定した動きを続けると予想されること、日銀は量的緩和という非常時の政策から金利政策という平常時の政策に戻すだけで、政策金利の引き上げは視野に入れていないこと、外部(政府)からの圧力に屈することなく自らの判断で適切な政策対応が実施できること」――こういった情報を金融市場に対して機会あるごとに発信していくことで、市場参加者が日銀の金融政策に疑心暗鬼に陥らないように配慮していくことになります。このようにして市場参加者の間にある程度免疫ができたと判断した時点で、日銀は政策変更に向けた動きを本格化させることになるでしょう。
最近、私の仕事が遅れる言い訳はすべて「引越し」ですが、Seijiさんから原稿をいただいてだいぶ時間がたってしまいました。「生き」が勝負な原稿だけに、申し訳なく思います。また、前回のテーマをさらに深掘りしていただきありがとうございます。深掘りしていただいた分、コメントを考えるのも苦労しました。
Seijiさんがそこまで詳しく解説していただくということは、今のマーケットを考える中で、日銀の金融政策が非常に重要、しっかりウォッチしなければならないということですね。
まず今回のレポートの最大のポイントは、短期金利が上昇しても長期金利は上昇しない可能性があるという点ですね。その理由を簡単に整理すると、以下のようになるのでしょうか?
しかし、それは決して金利が安定化しているわけではない。郵貯民営化も大詰めを迎えていますが、基本は赤字財政の問題、日本国内の金融のグローバル化等の大きな変化、そして経済情勢の変化・・・。金利が上昇しないからといってそれを単純な好材料と捉えてはいけない。これは間違いないようですね。
少なくとも、仕事はテキパキと進めて、無駄を作らない。公私共に必要なことだ(反省)。
日銀は5月20日の金融政策決定会合で金融政策スタンスを若干変更しました。その内容は「金融機関の手元資金量を示す日銀当座預金残高が、量的緩和政策の誘導目標の下限としてきた30兆円を一時的に下回ることを容認する」というもので、今のところ金融市場では冷静に受け止められているようです。ただ、決定会合の中では誘導目標自体の引き下げという一歩踏み込んだ議論も行われており、量的緩和政策解除のXデーは確実に近づいています。どうやら金利上昇への備えを考える時期がやってきたようです。
■量的緩和政策とは?
量的緩和政策とは、金融機関が業務を進めるうえで必要な資金量を大幅に上回って日銀が資金供給する政策のことで、景気低迷とデフレ進行を食い止めるために2001年3月に導入されました。米国などが行っている金利水準を誘導する通常の政策とは異なり、金融機関が日銀に開く決済口座の残高を調節するやり方で、現在の残高目標は30兆〜35兆円程度となっています。
この政策の具体的な狙いは2つありました。1つは金融機関の手元資金を潤沢にしておくことで資金繰り難による金融危機を未然に防ぐ金融安定化効果。もう1つは余ったお金を企業向け貸し出しなどに振り向けさせデフレ脱却に導く効果です。1つめはりそなの破綻が金融システム全体に広がるのを回避したように一定の効果を発揮しました。しかし、2つめについては、大手企業を中心に財務リストラのため銀行借入の返済に走ったことや、多くの金融機関がリスクを取って貸し出しを増やすことに躊躇したこともあり、目に見える効果はあがっていません。
ただ何はともあれ、4月のペイオフ解禁を無事通過した現在、量的緩和政策といういわゆる「危機管理体制」を続ける根拠は乏しくなっています。円滑な資金決済を行うために必要な残高は6兆円程度にすぎないので、不必要な量的緩和は今すぐにでも止めたいというのが日銀の本音でしょう。
しかし、一旦振り上げた拳を下ろすことができなくなっているというジレンマが日銀にはあります。というのはこの4年間、デフレの進行に対して金融緩和を強化するという名目で残高目標を段階的に引き上げてきました。もしもここで一気に残高目標の引き下げに踏み切れば、金融市場は日銀が金融引き締めに唐突に転換したと判断して市場金利が急騰し、その結果として景気の失速を招くことになって、2000年のゼロ金利解除時のトラウマが再び現実のものとなってしまうからです。
■下限割れ容認が意味すること
したがって、金融市場とうまくコミュニケーションを取りながら慎重に金融政策変更の地ならしを行っていくというグリーンスパン流のやり方が日銀に求められています。今回の下限割れ容認もそのような文脈の中で捉える必要があります。
じつは今回のことは6月前半の法人税上げによって日銀当座預金残高が一時的に減少する事態に対処するためのものです。日銀としては「一時的に残高目標の下限を割り込むという技術論的な出来事」が「残高目標引き下げへの地ならし」と誤解されて金融市場が混乱する事態を防ぐ狙いがあったと思われます。
とすれば、すでに日銀の事務サイドでは量的緩和解除にむけたシナリオ作りが着々と進んでいて、解除に至るまでの混乱を最小限にするために、不確定要因を洗い出す中で今回の下限割れの問題が提起されたと考えるべきでしょう。そして「残高目標自体の引き下げ」について、これから決定会合の場での議論が本格化し、その内容が議事録として公開されることを通して金融市場は徐々に量的緩和解除を織り込み、その結果として金利水準が次第に切り上がっていくことで景気失速を招くことなく金融政策の変更につなげる、というのが日銀の次なるシナリオでしょう。
金融引き締めは景気にとっては劇薬です。使い方を間違えるといろんなところで副作用が大きくなってしまいます。最初は少しずつ投与してその効果を確認しながら、徐々に効能を強くしていくきめ細かなやり方、いわゆるスムージングオペレーションが必要なのです。
■今後の利上げまでのプロセス
恐らく、量的緩和政策が解除されるまでの具体的なプロセスは、「デフレ脱却宣言」「残高目標の引き下げ」「量的目標から金利目標への移行」という3つのフェーズに分けられるでしょう。
現在、日銀は景気について「年央以降、回復の動きが次第に明確になる」というスタンスをとっていますが、そのとおりの展開となれば、10月末に発表する「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望レポート)で景気見通しを上方修正するとともに、2006年度のデフレ脱却宣言が出されることになるでしょう。
そうなれば、次に当座預金の残高目標を30兆円から6兆円程度まで半年かけて段階的に引き下げ、2006年度には量的指標から金利指標へ政策目標を変更し量的緩和を終結させるというシナリオが予想されます。であれば今年10月以降の市場金利の動きは要注意です。
ところで、このようなタイムスケジュールを予想するのは多分に政治的理由からです。じつは2007年度に入ると量的緩和解除に向けたハードルが高くなります。というのは、小泉首相が2006年9月に任期を迎え、2007年度以降消費税率の引き上げが現実味を増す公算が高いからです。消費税増税が経済に悪影響を及ぼせば金融引き締めどころではなくなります。こうした事情から日銀としてはなんとしても2006年度中に政策変更に踏み切りたいのです。
■金利上昇への対応策
日銀が描くシナリオが現実になれば市場金利は確実に上昇し、住宅ローンを抱える方にとって頭の痛い問題なのですが、その影響は返済期間の長さによって異なってきます。
<金利上昇による毎月返済額の増加率、現在の返済額を1とする>
借入金利の変化 残りの返済期間 10年 20年 30年 1%→3% 1.10倍 1.21倍 1.31倍 1%→5% 1.21倍 1.44倍 1.67倍 1%→7% 1.33倍 1.69倍 2.07倍
この表から分かるように残りの返済期間が長くなるほど、金利上昇による影響は大きくなります。例えば、毎月10万円返済していて借入金利が1%から3%に上がった場合、残りの返済期間が10年なら、毎月返済額は11万円と1万円の負担増にとどまりますが、20年だと約12万円で2万円、30年だと約13万円で3万円と負担の増加がだんだん拡大します。したがって、金利上昇への対応策を検討する場合は、まず残りの返済期間と負担増加率を確認しましょう。
残りの返済期間が長い場合、返済に余裕があれば10年固定金利への切替えを検討しましょう。なぜ10年かといえば、まず金利は景気に連動するためその変動にはサイクルがあり、10年の間に金利低下局面が再び到来する可能性があるからです。さらに、住宅ローンは次第にコモディティ商品化するため取扱手数料が下がり、かつ今後の金融技術の進歩を勘案すれば、かなり有利な借換えローンが登場する可能性が高いからです。住宅金融公庫の証券化ローンは対象が新規購入のみですが、借換え用の証券化ローンが民間でもこれから増加するでしょう。すでに、ソフトバンク系列の住宅ローン会社であるSBIモーゲージのように20年で表面金利2%台固定金利の借換えローンを発売しているところもあります。
従来の金利低下局面では返済負担減少を謳ったワンパターンの借換えセールスがすべてでしたが、今後の金利上昇局面では返済負担の増加(するリスク)をどうやって合理的な水準に設定するかが重要となります。毎月返済額を増やさないよう返済期間を長期化したり、反対に返済期間を短縮して総返済額の増加を抑えたりとさまざまな顧客ニーズに対応できるよう、FPとして金利上昇を想定した提案力を今から磨いておく必要がありそうです。
最近注目されている日銀の金融政策修正の可能性とその影響について、いつものようにわかりやすくコメントいただきありがとうございます。
消費者レベルで金融政策を理解するのは非常に難しく、なぜマスコミがそんなに大きく取り上げるのかわからない方も多いと思います。しかし、現実には、私たちの生活にひじょうに密接な問題なんですね。
で、具体的な問題分析です。
愛地球博のメイン会場がある愛知県長久手町の姉妹都市となっている、ベルギーのワーテルロー市は首都ブリュッセルから南へ約20キロに位置し、ナポレオン率いるフランス軍とウェリントン将軍率いる連合軍が戦った古戦場として有名な街です(http://www.town.nagakute.aichi.jp/kurasi/kokusai/waterloo/waterloo.asp)。
実は約200年前のこの地での戦いを利用して、ロンドンの英国債取引で巨額の売買益を得た人物がいます。ロスチャイルド財閥の長男ネイサンです。この会戦前はナポレオン有利との下馬評から英国債が暴落していました。ところが、彼は帆船・馬車・飛脚に当時最新の情報手段だった伝書鳩まで駆使し、ロンドンにいながらにして、連合軍勝利という情報をいち早く手に入れ、英国債を底値で買い占めたのです。その後、相場が急騰したのは言うまでもありません。
しかし、いまのインターネット社会では情報は瞬時に世界中を駆け巡り、どこにいてもほぼ同時に知ることができます。また、極秘情報を運良く手に入れることができたとしても、それを利用して有価証券を売買すれば不公正な取引(インサイダー取引)として処罰の対象となります。
こうして利用できる情報には差がなくなってくると、周知の情報から将来の世の中の動きを描き出すシナリオ構想力をいかに高めるかが、長期投資で成功する大きなポイントとなります。
■シナリオとは何か?
株式や債券の相場は時に大きく下がりますが、それをあらかじめ見越していれば冷静に判断できますので、底値で投げ売りするようなことは少なくなり、勇気をもって買い向かうこともできるでしょう。「想定の範囲内」というフレーズが流行りましたが、シナリオとは発生すれば影響が大きくなる出来事をあらかじめ想定しておくことです。
ただし、予測とシナリオは異なります。予測とは、最も確率が高いと思われるケースをメイン・ケースとし、それに幅をもたせるかたちでベスト・ケースとワースト・ケースを設定するという方法です。しかし、予測には大きな欠点があります。まず、確率で示されると、人は確率が低いものには注目しなくなります。そのため、メイン以外のケースは実際には無視されることになります。また、メイン・ケースの確率が高いのは現状のマーケット・トレンドを前提としているからで、その確率の高さに客観的意味はほとんどありません。経済誌が年始に掲載する1年後の相場予測が全く当たらないのはこういう理由によります。
シナリオとは、確率は低くても、起こったときには大きな影響を与える未来ストーリーを描くという方法です。現在、私は金融機関でリスク管理を担当していて、今後の経済・金融環境のさまざまな変化が毎年の利益や財務価値に与える影響をシミュレーションし、影響の大きなものについては対応策を検討して経営陣まで報告しています。そのような中で特に注意しているのは、未来は不連続であり、小さな変化の兆しもできるだけ見逃さないようにするということです。
■シナリオ作りのヒント
未来シナリオの作り方、いわゆる「未来学」は米国で発達したものです。「未来学」という言葉は日本ではなじみがありませんが、米国では「未来学」の学部を持つ大学があり、高校や中学では数え切れないくらい多くの学校がカリキュラムに取り入れています。「未来は自分が創造していくものだ」という国民性ゆえに発達した学問分野なのでしょう。そしてグローバル・ビジネス・ネットワーク(GBN)やランド研究所といった未来予測を専門にするシンクタンクも設立され、ホワイトハウスから日産自動車まで世界中の多様な組織にサービスを提供しています。これらのシンクタンクの中にはホームページで未来シナリオを無償開示(ただし英文)しているところもありますので参考にしてください。
実際に未来シナリオを作成するプロセスは創造性を発揮する発散過程と、それらを論理的にまとめる収束過程に分けられます。さらに、発散過程は(1)シナリオのフレームワークを決める、(2)情報を棚卸しするという2つのステップに、収束過程は(1)キー・ドライビング・フォースを見つける、(2)シナリオを作る、(3)シナリオをウオッチする準備に入る、という3つのステップにそれぞれ分けられます。ここでは詳細の説明は省略しますので、興味がある方は「シナリオ・シンキング」(西村行功著、ダイヤモンド社、2003年)を参考にしてください。
未来シナリオをうまく描けるかどうかは前半の発散過程次第です。創造性を発揮するためには多様な切り口で幅広く情報を収集する必要があります。たとえば新聞を読むとき、私たちは興味のある記事だけを選んで読み、それ以外は飛ばすということを無意識のうちに行っています。つまり、一定の認識パターンによって無意識に情報を取捨選択しているのです。そのため本当は重要な情報を目にしていても、その重要性を認識できないことが往々にして起こります。また、集めた情報にもモレやダブりが出てきます。
幅広いジャンルから重要な情報をバランスよく集めるには、まず、常識とは異なるアイデアに関心を寄せることです。それから、自分の専門分野や業界には関係ない情報源を持つこと。さらには、いろんな土地や国を旅行して、新しい生活風習、文化、価値観に触れることができれば一層よいでしょう。参考までに私が日常的にやっていることは、まず、新聞は一般紙だけでなく経済・産業・技術など専門紙も読み、とりわけ科学・技術の最先端の動きについては専門誌でフォローします。それ以外には、マスコミの報道パターンの変化に注意を払っています。政治体制といった移ろいやすい事象とは異なり、科学・技術はトレンドがはっきりしていて、なおかつ時代を決定する重要な要素となります。また、マスコミ報道によってそれまで無視されていた問題に対する世の中の認識が大きく転換することがありますので、その変化には注意が必要なのです。
■不連続時代を乗り切る知恵
未来シナリオを持つことのメリットは、何も投資に限ったことではありません。未来シナリオを描けば当然に暗いシナリオも出てきますが、その重大さを認識することによって、それが実現しないようにする力が働きます。たとえば、オゾンホールがもたらす影響を認識することによってフロンの排出量は大幅に削減されました。
ただ、私たち日本人には、明るい未来は歓迎しても、暗い未来はたとえ確実に予想されることであっても想像することすら拒否してしまう傾向があり、そのためにいろんな問題が先送りされてきました。4月19日に発表された政府の「21世紀ビジョン」も構造改革の重要性を説くばかりで、そのために払う犠牲の大きさについての説明はありません。構造改革をしないとこんなひどいことが起こるので、それを未然に防止するためみんなにコストを負担してもらいたいと言わない限り、私たち国民は事態の重大さをなかなか理解できないものです。
今回は、不連続の時代において未来シナリオを構想する力が大切になっていること、そして、そのためには情報に対する感性を高める必要があることを説明しました。増税、インフレ、人口減少、地球温暖化といった問題が山積していますが、それらの先にある未来イメージを共通認識とすることができるようになれば、事態の悪化を食い止めるアイデアが生まれてくると期待できるのではないでしょうか。
今回は、マーケットの現場を少し離れて、戦略論的な切り口でした。今までにない展開ですね。確かに、数字だけ追いかけていくと何かを見失ってしまうのかもしれません。
私のテーマである「税金」にしても、国家の問題、市民の問題として考えていく必要があると思います。税金が高いからいけない、安いからいけないという視点だけではなく、社会に参加しているより多くの人が考え、納得できる税制を構築していかなければならないのではないでしょうか?しかし、現実には、ミクロ的な部分に多くの人の視線が集まってしまい、大局な議論になることがほとんどないというのが私の印象です。いろいろなものが行き詰った時こそ、そのような視点が意味を持ってくると思います。
もちろん、今の財政問題を考えればそんな余裕はないだろいうという意見も当然あるのでしょうが、だからこそ大きく視点を変えて、「国のあり方」みたいなもの(小泉流の軽いフレーズ?ではなく、もっと腰を据えて)を多くの人が考えていくべきなんでしょうね。
ただ、どんな問題であれ、そうは言っても自分自身の生活、日々生きていくことが大切ですから、「未来のことをじっくり考える余裕を持て」といっても難しい現実もあると思います(中国での反日デモも、国内のストレスが日本に向けられただけというイメージが強いですし、日本国内の犯罪事件も、日本全体に強いストレスがかかっているという感じです)。そんな時は、愛・地球博にでも出かけていって、非日常に浸り、少しでもゆとりを持ってごらんになるのが一番かもしれません。
その愛・地球博ですが、私の周りでも、「行って来たよ」という方が増えてきました。最新技術や参加してる国の人たちが作る本場料理などが好評だったり、「同じ待ち時間なら、ディズニーランドの方が楽しい」という話も聞いたり、やっぱり「万博」です。いろいろな評判ですが、パビリオンを回ることよりも、日常と違う時間をご家族や親しい方と共有するということに意味を見出すことも大切なことです。マンモスやロボットを見るより、味噌煮込みうどん、味噌カツ、名古屋コーチン、きしめんにういろう・・という人もいらっしゃるのではないでしょうか?愛媛の人にとっては名古屋は少し遠いところです。
ところで、わが家はいつ行くんだろう?あの仕事もあるし、この案件も進んでないし、そうだ事務所の引越もあるんだった・・・(・_・;)。
英エコノミスト誌は3ヵ月ごとに主要先進国の住宅価格を調査していますが、最新分が2005年3月5号に掲載されていました。それによると、多くの先進国で住宅価格の上昇があいかわらず続いていて、すでに分譲を買うより賃貸に住むほうがずっとお得になっているのですが、それでもなお「もっと上がりそうだ」という期待感からさらに買われるという、まさにバブルの様相を呈しているようです。しかし、日本では大都市圏の一部を除くと依然として地価の下落が続いており、特に地方都市に住んでいると世界的な住宅ブームなんてまったくピンと来ないのが正直なところです。
これまで日本の地価が下げ止まらない原因は不良債権問題といわれてきましたが、どうやらそれだけではないようです。実は先進国で住宅価格が下がり続けているのはドイツと日本だけなのですが、この両国に共通するのが人口減少時代にまもなく突入するという問題です。
人口の減少は今後の住宅市場に影響を与えるとともに、それによって個人の貯蓄行動も大きく変化すると予想されます。今後どのような変化が起こるのか?その時FPにはどんな役割が求められるのか?今後10年の間に起こる変化をイメージしてみましょう。
■急速に進む人口減少
総務省が発表した2004年10月1日現在の推計人口によると、男性人口は6,229万5千人で前年比9千人減となり、戦後初めて減少に転じました。全体では前年比6万7千人の増加でしたが、このままでは2007年頃までに日本は人口減少社会に突入することになりそうです。
人口減少の原因は死亡者数の増加です。日本の死亡者数は90年代の後半に突如、増加に転じました。長寿化によって高齢者数が増加し、それが死亡者数の増加につながったのです。2003年の死亡者数は102万人ですが、高齢化の進行に伴い、2010年代初頭には120万に人に達する見込みです。
一方、出生者数は2003年の112万人から10年後には100万人を下回ると予想されます。ただ、出生率の低下は、実は昭和の初めから何世代にもわたって続いている長期的現象で、ここにきて減少の程度が特に著しくなったというわけではありません。そのため、人口減少対策として出生率向上を図ろうという最近の議論からは大した効果は期待できないのです。
■人口減少が住宅市場に与える影響
人口の減少によって、住宅需要の基礎単位である世帯数は2010年から2015年の間に減少に向かう見込みです。さらに世帯類型も大きく変化し、「夫婦のみ」と「単身」世帯の比率が急速に高まり、2015年にはこの2つの類型を合わせると、総世帯数の50%近くに上ると予想されます。これは、必要となる住宅数が減少するだけでなく、その規模も小さくて済むようになることを意味しています。
一方、住宅のストックは増え続けていて、空室率はすでに90年代後半に米国を上回っています。今後、中古住宅の流動化が進めば、2010年から2015年には住宅が余る時代を迎えます。これまで日本では十分な流動性を持った中古住宅市場がなかったことから、中古住宅取得件数と新設住宅数との比率をみると、米国では3倍強に上るのに対し日本では0.1倍程度に過ぎません。これは全くおかしな話で、クルマに例えると、新車がどんどん販売されているのに中古車を売買する市場がほとんどないのと同じような状況です。住宅は「一生に一度の買い物」という固定観念が日本で定着してきた背景にはこうしたいびつな市場構造があったのです。今後、中古住宅市場が整備されてくれば、欧米並みにライフステージに応じて住宅を買い替えていくことが一般的になると期待されます。
■予想される個人の貯蓄行動変化
そうなれば、米国のように若年世代にも安価な中古住宅による持家取得が浸透し、「新築・持家」をめざしてひたすら貯蓄に励む必要性が低下するでしょう。また、世帯規模の縮小により借家の広さで十分という発想から住宅取得計画自体を持たない世帯が増加する可能性もあります。さらに、老後には広い持家を売却して金融資産に換えて賃貸に住むケースも増えてきそうです。
となれば当然、住宅取得のための頭金やローン返済のための流動性を確保する必要性は低くなります。また持家の売却を前提にすると、老後資金の準備もこれまでよりかなり少なくて済むことになります。野村総研の試算によると、こうした住宅関連貯蓄の必要がなくなれば約480兆円に上る金融資産が動く可能性があるということです。
そして、住宅ローン借入に伴って負担するリスク(金利リスク、所得減少リスク、住宅価格下落リスク)が小さくなると、株式や外貨に対する家計のリスク許容度は高まります。さらに、人口減少社会では所得の伸びはまず期待できなくなることから、その面からも金融資産運用を強化する必要性は高まります。結果として、住宅関連貯蓄480兆円の大半が預貯金から株式や外貨資産等のリスク資産へシフトすると予想されます。
■これからのFPに求められるもの
資金運用ニーズが高まれば、FPに対する社会的期待も膨らむでしょうが、そうなるとFPの中立性が大変重要になってきます。現在、銀行による投信販売が拡大していますが、必ずしも顧客の利益に適った販売が行われていません。例えば、今、売れ筋となっている毎月分配型の外貨債投信などは非常に大きな為替リスクを抱えていて、後々、相続する世代に元本割れリスクを転化するだけの商品なのですが、年金感覚で毎月配当金が受け取れるという点のみがクローズアップされています。一方、保有コストが割高で、かつ毎月分配すると税制上不利になって元本が減価するリスクが大きくなることから、機関投資家が決して購入しない商品であるという事実は、個人セールスの現場で完全に無視されています。
人口減少社会の到来によって年功序列賃金から能力別賃金に移行すると、資産運用の成否が私たちの人生を大きく左右することになるかもしれません。これまでであれば運用で多少失敗しても、年とともに増える収入によって損失をカバーできました。しかし、今後、高いスキルを新たに身につけなければ収入は増えない時代となるため、資産運用で何度も失敗していると、ある意味、人生の敗北者になってしまいます。ということは、顧客も資産運用に対してこれまでになく真剣になるはずで、FPも目先の手数料欲しさからいい加減なセールスはできなくなります。
今後10年のうちに「貯蓄から投資へ」の流れは確実に加速します。FPにとってはビジネスチャンスが拡大する一方で、顧客の要求レベルは間違いなく上昇し、選別の時代に入ります。こうした問題意識を持って、これからのFPとしてのあり方を前向きに考えていきましょう。
春休みを利用して我が家の長男が10日間ほど中国のショートホームステイに出かけています。家族が1人少なくなったわが家は、ぽっかり穴が開いた感じです。「人口減少時代の家庭」を実感していますが、これが日本中の家庭で繰り広げられて半世紀なんですね。今回は、そのテーマをタイミング良く(偶然ですが)、取り上げていただきました。
同じく、タイミングよく、国土交通省から2005(平成17)年1月1日時点の公示価格も発表されました。それによれば、全国平均は13年連続 対前年比6.2%の下落。東京都区部の住宅地や都心商業地を中心に下げ止まり傾向が見られ、下落率も6年ぶりに対前年比0.2%縮小したのことです。これは短期的な視点で、発表のように楽観的な部分だけを捉えて良いものか疑問です。ただ、お金が土地に向かい始めているとは言えるようで、インフレの傾向も含めて(インフレが直接的に地価に影響することはないでしょうが)注目していきたいところです。
ところで、今回、Seijiさんが指摘されているのは、
・・・とまとめることができるのでしょうか?
日本人の中で、バブルの崩壊を経て、不動産に対する価値観が大きく変化したことは間違いないと思います。また、住宅ローンの負担が減少する結果、将来的に、金融資産の選択上リスクをとる幅が増えるというのも十分考えられるシナリオでしょう。ただ、問題は、すでにかなりの日本人が多額の住宅ローンを抱えてしまっているという現実です。インフレでその負担は軽減する可能性もありますが、同時に起こりうる経済的な混乱(それはかなり大変なものになる可能性もあります)を乗り切り、同時に今の負債を上手に切り離すことができる人がどの程度いるか?という現実的な問題も横たわっているような気がします(この点はまたどこかで解説をお願いしたいものです)。
また、政府の住宅政策に一定の方向性が見えないのも問題だと思います。この点もしっかり勉強しておく必要がありますね。
いずれにしても、人口減少が抱えるさまざまな経済現象はこれから現実的なものになってくるでしょうから、もし、インフレ待望論みたいな空気が世の中に広がったとしても、それが簡単に自分の家計の問題を解消してくれると考えるのではなく、着実に返済できるだけの収益獲得能力を身に着けておくべきなんでしょうね。当然、パチンコや競輪・競馬みたいなギャンブルではなくて・・・。
昨年末に発表された2005年度の国債発行計画によると、国債の発行額は今年度よりも7兆円増額される見通しです。しかし、ひと頃よりも景気が回復して税収は増加し、その分、一般会計の国債新規発行額は減額される予定です。にもかかわらず、なぜ全体の発行額が増えるのでしょうか?その理由は、過去に発行した国債が大量に償還期限を迎え、その借り換え需要が増えていることにあります。
今後も借り換えは増加し、2008年度にピークを迎えます。大量の借り換えが国債相場に悪影響を及ぼすと心配されているのが「国債の2008年問題」です。今回の発行計画ではこの問題への対策がいくつか講じられています。これだけ国債残高が増えると、さすがに政府も危機感を抱いているのでしょう。しかし、郵政民営化と財投改革の問題が今後の国債消化に暗雲を投げかけてくることから、はたして小手先の対応だけで金利をうまくコントロールできるかどうかは未知数です。今回は、中長期的な金利動向に影響するこの国債市場の構造的問題を考えてみましょう。
■「国債の2008年問題」に対する政府の対応
財務省によると2005年度の国債発行予定額の内訳は次の通りです。
| (単位:億円) | |||
| 2004年度当初 | 2005年度予定 | 増減 | |
| 新規財源債 | 365,900 | 343,900 | ▲22,000 |
| 借換債 | 844,507 | 1,038,151 | 193,644 |
| 財政融資特会債 | 413,000 | 313,000 | ▲100,000 |
| 合計 | 1,623,407 | 1,695,051 | 71,644 |
新規財源債は、来年度の一般会計の歳入不足を埋めるために発行するものです。借換債は、来年度に償還期限が到来する国債のうち、償還財源がないために再度、国債を発行するものです。財政融資特会債は財政投融資(特別会計)の資金調達をするものです。
全体の発行額は今年度に比べて7兆円増加しますが、これは借換債が19兆円も増加するためです。一方で新規財源債は税収増加から減少に転じ、財政融資特会債も新規投資抑制のため大幅に縮小します。このように国債を減らす努力の跡はみえるものの、過去の発行額があまりに大きいため、結局、全体の発行額が膨らんでしまうのです。
こうした傾向は2008年度まで続きます。その一方で、財投改革によって2008年度には郵貯や年金積立金による国債引受がなくなります。つまり、国債の発行が増加するなかで、これまで安定的に国債を消化していた部門がなくなるのです。このままでは、市中発行される国債が大幅に増加し、需給悪化から国債相場はいつ暴落してもおかしくありません。
そういった事態を回避するため、今回の発行計画では日銀乗換の大幅増加、投資家のニーズが強い超長期債や物価連動債等の増発、新型個人向け国債の発行といった対応策がとられています。なかでも注目すべきは日銀乗換の大幅増加です。
■新たな金利上昇リスクの台頭
日銀乗換とは、日銀が保有する利付国債のうちその年度に償還期限が到来する分を1年物の短期国債(TB)と交換することです。日銀乗換は今年度の13兆円から来年度は23兆円へと大幅に増加します。そして、その量の大きさにも増して問題なのがその中身です。23兆円の内訳をみると、来年度に償還になる利付国債からの乗換えが15兆円あまりで、残りのほとんどは今年度中に一度乗換えたTBからの再乗換えです。再乗換えが毎年起これば、中長期債に乗換えている(つまり日銀が長期債を直接引き受ける)のと実質的に同じことになります。
ところで、日銀は2001年3月に量的緩和政策を採用した際、「保有する長期国債の残高は銀行券発行高を上限とする」というルールを設定しています。2004年12月22日現在、日銀が保有する長期国債残高は約65兆円で、銀行券発行高は75兆円です。今後、日銀再乗換えが増加し、それを加算した実質的な長期国債保有高が銀行券発行高を超えてしまう事態は十分想定されます。もしそうなればこのルールは有名無実化してしまうため、国債引受がなし崩し的に拡大しかねないという懸念から日銀への信認が低下し、国債の暴落(長期金利上昇)を招く危険性があります。最悪の場合、利払い負担の増加から借換債の発行額がさらに増えてしまうという悪循環に陥りかねません。
■欠落している財政改革のビジョン
このようにどこかにしわ寄せがいけば金利上昇圧力は必ず高まります。したがって、抜本的な財政構造改革によって非効率な歳出を大幅に削減しない限り、国債増発による金利上昇圧力を緩和することはできないでしょう。
ところが今回、政府はそういった説明責任を果たさないばかりか、整備新幹線3区間の着工や関西国際空港の2本目の滑走路に予算をつけるという禍根を残してしまいました。そこにはまっとうな経済感覚は感じられません。もし、民間企業でこんな投資をすれば株価が大幅に下がるか、あるいは資金繰りがおかしくなって経営者の責任問題に発展してしまいます。
その一方で、定率減税の段階的廃止が決定されるとともに、消費税率引き上げもスケジュールに明記されるなど、われわれ一般国民の負担は増大するばかりです。これでは、増税を嫌って個人資金が海外流出しても仕方ないことかもしれません。
■自己責任時代の到来?
来年度の国債発行計画と同日に、金融庁から金融改革プログラムが発表されました。これは今後2年間の金融行政の指針となるもので、「貯蓄から投資へ」という流れをさらに加速させることをひとつの目的としています。
なぜ、「貯蓄から投資へ」なのかというと、これまでの日本は間接金融優位だったのでバブル崩壊で金融機関の不良債権問題が長期化し、金融システムが弱体化して経済の回復が遅れてしまいました。そこで株式市場に個人の資金を呼び込めば、再び同じような問題が起きても国民に広く浅く負担が拡散するため、深刻な金融システム問題には発展しないという思惑があるようです。
まさに自己責任時代の到来です。しかし、ほとんどの一般国民には自己責任を全うできるだけの金融知識も投資経験もありません。このような状況のなかで、銀行や郵貯などに投資商品の販売窓口を拡大することがほんとうに利用者のニーズに答えることになるのでしょうか?
いずれにしても、社会の変化に対して自分がどういう立場にあるのか、そしてその変化をどう受け止めるのか――そういう意識を持つことがますます大切になってくる、2005年はそんな1年になると思っています。
財政赤字がいくらになったか?ということはよく話題に上りますが、実際にその赤字がどのような形で膨らみ、時間の経過と共にどうなるか?ということは報道されることもありません。今回のレポートはその点が明確になったと同時に、財政赤字の抱える問題について深く考えさせられる内容でした。最近になって、個人投資家向けの国債の広告が目立つようになってきたのもな〜るほどですね。日銀の打ち出の小槌もどこまで通用するものか?公的な見解はほとんど聞くことができません。また、中長期債から短期債へのシフトは国債購入に伴う金利上昇のリスクを回避するためには仕方ないのかもしれませんが、見方を変えれば、そのリスクを国が背負ってしまっている訳で、結局、財政赤字そのものを軽減しなければ何の解決にもならないですね(もっともその話が単純に国民の負担につながってしまってもいけないわけですが)。いつものように明快なお話ありがとうございました。
話は変わりますが、現在、「よくわかる鉄道業界」(日本実業出版社刊)という本を読んでいます。日本に鉄道が生まれてから今に至るまでの話が書かれているのですが、この鉄道の歴史を追いかけていくと、今の日本が抱える問題と大きく一致していることを実感します。
国鉄が赤字に陥るのは、東海道新幹線が営業を始めた昭和39(1964)年。昭和55(1980)年には14兆3992億円(最終的には37兆1000億円)の長期債務を抱え、昭和62(1987)年には結局、民営化されていくわけです。赤字発生から23年。なぜそうなったのか?一言で言えば、日本経済の進歩についていくことができなかったということになるのでしょうが、それは結果であって、最大の問題は、鉄道輸送が抱える問題を認識しながら思い切った決断ができなかった政治家も含めた上層部ではないか?と思えるのです。そして、いまだに整備新幹線です。
改めて国鉄の歴史をたどってみると、改善されない赤字、積み重なっていく債務、廃線と同時進行の新線建設(政治的な思惑)、中途半端な人員削減と労使問題、ヤミ手当などの不祥事、そして民営化・・・。今の日本が抱える問題は、この国鉄とうり二つのような気がします。それから約20年。途中バブルを経験しながら、我々はそのことをすっかり忘れてしまったようです。
このコラムでのやり取りも、最近は「自己責任って何なのか?」がよくテーマに上ります。かつての国鉄や、今の日本の財政状態を招いた原因を改めて考え、その大きな渦に自分たちの家計が飲み込まれていかないように、しっかり勉強していかなくてはいけないようですね。
新年早々厳しい内容になってしまいましたが、まずは元気に参りましょう!
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ドルの下落が続いています。FRBのグリーンスパン議長は11月19日、フランクフルトで講演し「米国の経常赤字の規模からみて、いずれかの時点でドル資産への投資意欲の減退が起こるはずとみるのが説得的だ」と述べ、このまま米国の経常赤字が続けばドルは下がる以外にないことを認めました。これをきっかけに一段とドル安が進み、米国債は売り込まれ、金価格も大幅に上昇しています。
ここ数年で外貨預金や外国債投信が個人投資家に急速に普及してきましたので、為替相場の先行きを心配されている方も多いと思います。ドル安の本当の原因がどこにあるのか?長期的にドル相場をどう考えていけばよいのか?第二期ブッシュ政権のスタートを前にポイントを整理してみましょう。
■ドル安の本当の原因
このところのドル安は、米国で経常収支と財政収支の赤字(いわゆる「双子の赤字」)が拡大していることを材料視したものです。双子の赤字が同時に増えるということは、海外からどんどんお金を借りて、それでモノの購入(輸入)代金を支払っているということです。個人の場合なら、金遣いが荒くて借金が膨らんでくれば、金融機関からお金を借りるのは難しくなってきます。
これと同じように、米国が無計画に借金を増やせば、やがて貸し手である海外の投資家が資金を出し渋ってきます。そうなれば、借入金利を大幅に引き上げるか、消費を抑えて借入を減らすといった対応が必要になり、結果として米国の景気後退と株価下落を招き、世界経済にも深刻な打撃を与えることになります。だとすれば米国の有価証券への投資は魅力的でなくなるので、それを見越してドルが売りこまれているのです。
ところで、経常赤字の問題を米国の外から眺めると、米国がドルを印刷し、ばら撒きながら、自らの所得を超えた過剰な消費を続けているように見えます。一方、米国側から見れば、日本や欧州などは構造的に内需が不足して世界経済の成長の牽引役にはなれないので、米国が基軸通貨国としてドルの信用が低下する危険を冒しつつ、経常赤字を出し、世界経済を支えているということになります。
いずれにしても経常収支の赤字拡大はドル安をもたらします。しかし、ドル安になっただけでは経常収支の赤字(経常赤字)は減少しません。経常赤字を減らすためには、ドルが安くなるだけでなく、米国人が過剰体質を改めて消費を減らして貯蓄を増やすか、あるいは米国以外の国が内需(主に消費)を大幅に拡大して米国からの輸入を増やすか、どちらかが必要になります。
しかし、米国の貯蓄率は80年代以降低下傾向が続き、過剰消費体質が国民性とまでいわれる中で、国民の貯蓄行動を政策対応によって転換させることは至難の業です。それでは、80年代後半のように国際協調によって問題を解決することが可能なのでしょうか?
■日・中・欧それぞれの事情
80年代後半を振り返ると、ドルはプラザ合意直前の85年3月をピークに(主要通貨に対して平均で)約4割下落しました。87年にはブラックマンデーが発生しましたが、大恐慌のような大きな混乱は起こりませんでした。というのは米国の需要の減少を日・独がカバーしたからです。当時の日本はバブル景気で内需が絶好調でした。ドイツも89年のベルリンの壁崩壊(東西ドイツ統合)で消費が大幅に増えました。こうして両国が米国に変わって世界経済の牽引役を果たしので、米国は世界経済に大きな打撃を与えることなく経常赤字を減らすことができたのです。
しかし、今回は日本・欧州共に内需に力強さが見られません。景気は回復傾向にありますが、輸出主導なので回復ペースも緩やかです。中国は高い経済成長を維持していますが、今年に入って貿易収支が赤字に転落し、金融引き締めに転換したことから、これ以上輸入を拡大する余裕はありません。したがって、今回は80年代とは事情が異なり、米国以外の国が内需を拡大して輸入を大幅に増やし、それで米国の経常赤字を減らすという方法は現実的ではないのです。
有効な対応策が見つけられないまま米国の経常赤字は今後も高水準で推移し、ドル安が続くのでしょうか?冒頭のグリーンスパン発言はそういったことを先読みし、突発的なドル暴落を防ぎ、緩やかなドル安誘導を意図しているのかもしれません。つまり、マーケットにドル暴落エネルギーが蓄積しないよう、徐々にガス抜きをしているのということです。しかし、見方を変えると、これは第二期ブッシュ政権スタートまでの政治的空白を埋めるつなぎの役割を果たしているだけとも考えられます。
■今後のドル相場シナリオ
それでは中・長期的にドル相場の行方をどう考えていけばよいのでしょうか?国際資本移動に詳しいみずほ証券のエコノミスト吉川雅幸氏によると「ドルを買うべきかどうかの判断は(中略)国際経済・金融の枠組みにおいて『米国の世紀』が続くのか、それとも『多極化の時代』に移行していくのかの判断に等しい」(注)と述べています。そして、今後3〜5年のドル相場について具体的に4つのシナリオを提示しています。
(1)緩やかな均衡回復とドル本位制継続
米国の政策当局が税制、社会保障改革等によって過剰消費体質を徐々に調整し、経常赤字は緩やかに低下し始める。米国が節度ある政策をとることによって、ドルの信認は崩れず、双子の赤字のファイナンス問題は顕在化しない。(2)赤字ファイナンス継続とゆるやかな多極化
大幅な双子の赤字が続き米国の政府債務や対外債務が積み上がっても、海外からの資本流入によってファイナンスされ続け、大きな混乱は起きない。しかし、双子の赤字はなかなか解消しないため中期的にはゆっくりとドル離れが進む。貿易や国際資本移動は米国、欧州、アジアというグループに時間をかけて分かれていき、ドル本位制のメカニズムも弱まっていく。(3)保護主義傾向の高まり
貿易赤字拡大のニュースを受けて株価が下落するなど、双子の赤字が米国の金融市場動の揺につながる気配が出始める中で、米国では為替調整の限界が政治的にクローズアップされ、保護主義圧力が強まる。各種の「構造協議」といった形で貿易不均衡を政治的に緩和しようとする。貿易や資本移動のブロック圏が形成され、ドル本位制は事実上消滅する。(4)ドル安加速
米国の双子の赤字に対して有効な手が打たれず、ドル危機が起こる。グローバルにデフレになり、通貨の動きは不安定になる。
これらのシナリオにおけるドル相場のイメージは次のようになります。まず(1)は短期的には限定的なドル安、中長期的にはドル高となります。逆に(2)は短期的にはドルが若干強くなるものの、中長期的にはゆるやかなドル安が続きます。(3)は対米貿易依存度が高い日本やアジア諸国が経済的に大きなダメージを受けるため消去法的にドルが上昇します。そして(4)では海外投資家がドル資産を大量売却するため、ドルは大幅に下落し、対円での史上最高値(79円75銭)を超えることになります。
今のところマーケットはシナリオ(4)を中心に展開しているようです。しかし、多分に投機的な動きであり、これが中長期的なトレンドになるとは思えません。今後の展開がどれに最も近くなるかは、第二期ブッシュ政権の政策次第です。ブッシュにとって二期目は再選のために景気対策を優先する必要はなく、いかにすれば偉大な大統領として歴史に名を残せるかということに関心を集中させるはずです。外交面にかつてないほどの課題を抱えながら、双子の赤字問題にどこまで本気で取り組むのか、年明け以降の展開を注目していきましょう。
(注)吉川雅幸著「ドルリスク・国際資本移動とアメリカ経済」、日本経済新聞社、2004年9月
米大統領選後半から進んできたドル安ですが、年末の話題として、タイミングよく取り上げていただきました。
40歳以上の日本人にとって米国という国は憧れの地でした(少なくとも私個人にとっては)。敗戦の焦土となった国にサングラスをかけてかっこよく乗り込んできて、圧倒的に不足していた物資を大量にしかも無償で提供してくれた国(本土はさらに豊かな物資に恵まれている)。テレビ番組でいえば、奥様は魔女、名犬ラッシー、コンバット、ジョン&パンチ、ビバリーヒルズ白書・・・。イギリス人のようなこだわりもなく、明るく解放的な国民性。最近でいえば大リーグに代表されますが、米国で努力すれば実力だけで勝負できるというアメリカンドリーム。そんな強烈なイメージが時間をかけて崩れていこうとしているのが今のドル安ではないかと私には思えてしまいます。アメリカのように、競争を重視すれば良い結果が生まれると日本経済自身が盲目的に突っ走ってきた結果、日本全体にとても重たい疲労感が残っています。もっとも今の日本の政治は、そのようなことにお構いなく米国追従をさらに強めようとしているようです(このままでは近い将来、日米ともに破綻してしまう可能性がありますが・・)。
では、具体的に米国がどうなってしまうのか?という点ですが、世界的な傾向として米国離れが進んでいるような気がします。世界経済を考えた場合、消費国としての米国は無視できないのですが、暴走が眼に余る最近の米国にはついていけない、自国経済を維持するために当面は米国とのつながりを維持するが、他に方針が見つかれば、または機会があれば、タイミング良く米国との縁を切りたいというのが各国の本音なのではないかと思われるのです。それを最も強く感じるのが、EU、中国、ロシアです。極端な発想かもしれませんが、欧州ではユーロを、アジアでは円を基軸通貨とする分散型の為替政策もありうるのではないでしょうか?
翻って米国の姿勢はどうかというと、第2次ブッシュ政権の顔ぶれを見ても、国際的な連係・協調は放棄しているようにも見えてしまいます(日本政府は「追従」であって、「連係・協調」とは到底いえないような気がします)。実際、米政府はドル安を問題視していないという話も漏れ伝わってきます。
このような流れを見ていくと、Seijiさんがご指摘のように、ドル安基調が長期的に進行していくものと私も思います。その中で日本経済がどのように対応していくのかということは非常に重要な視点です。一時的なショックは免れないでしょうが、現状を維持することは至難の業でしょうから、その時に備えてしっかりした長期ビジョンを持って対米関係を考えていくことが必要だと思われます。
家計も無縁ではありませんね。今や預金も保険も証券も、外貨建て商品を購入することがごく普通になってしまった時代です。為替の変動は物価にも大きく影響します。為替の変動とそれによる生活への影響はマスコミからはまず得られないと思うことが大事です。しっかりした情報源を確保し、自分の生活と世界経済をリンクさせた視点を持って、ライフプランを構築していくことも求められているといえますね。
どうも来年も大変な年になりそうですね。お互いに飲み過ぎには気をつけて(?)、まず体を守ってまいりましょう。
2004年10月から厚生年金保険料の段階的引き上げが始まり、年末には配偶者特別控除も廃止されます。さらに、来年以降は個人向け減税(定率減税)の縮小が予定されるなど、家計の負担はますます増加します。特に、サラリーマン家庭の重税感は募るばかりです。かといって、会社勤めを辞めて心機一転、独立開業する踏ん切りもつきません。では、このまま政府と心中することになってしまうのでしょうか?――「そうならないライフプランを考えよう」というのが今回のテーマです。
■崩れていく社会システム
今、日本では社会システムの矛盾がますます深刻になっています。特に、サラリーマン家庭にとって社会保険制度はほとんど詐欺的といえるでしょう。
例えば厚生年金を見た場合、今後の段階的な保険料率の引き上げを考慮すると、生涯の平均年収600万円の一般的サラリーマン家庭が40年間に払い込む保険料は総額で約4,200万円になります。ご存知の通り厚生年金は定額部分と報酬比例部分の2階建てになっているので、定額部分は国民年金と同じということで約800万円になり、残りの3,400万円が報酬比例部分の積立保険料となります。なお、ここでいう保険料は企業負担分を合わせた金額をいいます。というのは、会社負担分ももともとは人件費で、社会保険料の支払いがなければサラリーマンがもらえるはずのお金だからです。
一方、厚生労働省のモデルケースでは平均的なサラリーマン夫婦が65歳から受給できる年金は月額24万円程度になります。このうち約13万円は定額部分(老齢基礎年金)ですから残りの11万円(年間約130万円)が報酬比例部分となります。
ところで、年間130万円の年金を80歳まで受給しても、総受給額は1,900万円にしかなりません。支払った保険料は3,400万円でしたので、これでは元金を割り込むばかりか1,500万円も持ち出すことになってしまいます。この持ち出し分は国民年金の保険料未納者の穴埋めに使われることになります。
こうした制度矛盾は消費税を福祉目的税化して税率を引き上げれば簡単に解決できるのですが、残念ながら今の政府は省益が優先し、そんな議論にはなっていません。きっと、どうしようもなくなるまで政府の姿勢は変わらないでしょう。
長期的に見ると、このようなシステムはやがて立ち行かなくなり、いつか新しい制度に取って変わられることは明らかです。しかし、しばらくは制度矛盾が拡大し、公的債務問題も絡んで、増大する負担に私たち生活者が翻弄される事態が続きそうです。
■時代遅れのライフプラン
こういった厳しい状況が予想されるなか、サラリーマン家庭にとって、従来のライフプランの考え方はもう時代遅れになっています。30代で持ち家を購入し、子供2人を大学にいかせると退職金は底をつき、老後は安泰ではなくなるのです。
というのは、これからは退職金や年金が減額される一方で、社会保険料の負担は増大し、さらに子供1人を大学までいかせるとマンション1戸分が買えるくらい教育費がかかります。そのため、住宅ローンの頭金としてキャッシュを吐き出してしまうと、子供が成長するに従ってキャッシュフローのマイナスが拡大し、やっと退職金でローンを完済したときには資産は自宅だけで、65歳まで年金も出ないという悲惨な状況に陥りかねません。正直なところ、この予備軍になりそうな人が私の周りで増えています。
さらに、今後人口が減少し、住宅地の評価にも欧米並みの収益還元法が導入されるようになると不動産価格の上昇は望み薄です。かつての土地神話のイメージが残っているため、日本人の不動産に対する執着は依然強いものがあります。しかし、冷静に考えると、土地神話が成立したのは、戦後の高度成長と高インフレのおかげです。そうした前提が崩れた今、不動産を持つことは資産運用として有利とは言えません。
サラリーマンが若いうちに住宅ローンを借りて家を建てると、金融資産がほとんどなくなり、不動産に運用リスクが集中するため、投資の分散効果がまったく働かなくなります。そのため最悪の場合、住宅ローンを払い終わると老朽化した広い家だけが残り、現金資産ゼロという事態があり得るのです。不動産も資産運用の一つと考えれば、若いうちに無理をして家を建てる必要がどこにあるのでしょうか?
■経済的独立のための最新ライフプラン
子供の成長を考えると広い家が必要なのはほんの10年に過ぎません。そこで発想を転換して、賃貸に住みながら金融資産で運用し、退職後に小さなマンションでも買えば、キャッシュフローはかなり改善できます。さらに、老後の支出を無理なく減らそうと思えば、物価が安い海外で生活するという方法も一考の価値があります。
個人的な話で恐縮ですが、私は退職後ヨーロッパ、具体的にはイタリアでの生活を考えています。イタリアは比較的物価が安く、南部に行けば手取り収入が200万円以下でもゆったりと生活できます。地中海の太陽をいっぱいに浴びた食材と美味しいワイン、気さくで親切な国民性、そして古代ローマとルネッサンスの伝統で洗練された芸術文化と、生活に退屈することはまったくありません。
そのための資金作りについては、現在はユーロが流通しているので、資金もユーロを中心に運用することになります。将来の海外生活や税金の問題を考えると、まずはヨーロッパのオフショアバンクに口座を開設するのがよいでしょう。オフショアバンクは、タックスヘイブンに設立された銀行のことで、その多くがヨーロッパの大手銀行の子会社です。タックスヘイブンというと、日本では資産家向けで敷居が高いと思われがちですが、決してそんなことはなくて、数十万円から気軽に利用できます。ただし、若干の英語力は必要となります。なお、オフショアバンクに興味がある方は「AIC」のサイト(http://www.alt-invest.com/)を参考にしてください。
ところで、運用利回りを高める最も確実な方法は税金を払わないことですが、オフショアバンクの口座を基点にして預金や割引債で運用すると、合法的に課税を回避できます。さらに、オフショアバンクは支店を持たない分、預金金利を高めに設定しているので、国内の銀行で外貨預金をするよりも有利になります。
このように退職後のライフプランがはっきりしていれば、周到な準備が可能になります。そうなれば何もリスクをとって株式運用の比率を高める必要はないのです。
■21世紀を豊かに生きるキーワード
お金がたくさんあれば人生が幸せというわけではありませんが、経済的に行き詰まってしまっては人生を幸せに暮らすことはできません。日本では生活者受難の時代がしばらく続きそうですが、活路はあります。経済がグローバル化する中では、ライフプランもグローバルな視点から見つめ直せばよいわけで、そのキーワードが内外価格差なのです。
日本国籍を持っていれば海外にいても年金を受給できるので、物価の高い日本を飛び出して、しばらくの間、タイでもインドネシアでも、あるいはイタリアでも好きなところで生活をエンジョイすればいいでしょう。もし日本にいる家族とコミュニケーションしたければ、ノートPCと携帯電話さえあれば事は足ります。しかし、どうしても海外に行きたくないという方であれば、国内で田舎に移り住むという方法もあります。
このように住む場所を固定して考えなければ、ライフプランにいろんなバリエーションが生まれます。ただし、そのためには健康でなければなりませんので、お酒はちょっと控えめにしようと私はひそかに心に決めたところです。
先月のテーマをさらに発展されたような原稿になりましたね。突拍子もないような話のようですが、私には非常に現実的な話に思います。特に前半部分は大いに共感する部分があります。
ご指摘のように、冷静に考えれば、年収600万円程度では今までのような生活を維持することは不可能です(松山では十分高給です)。改めて計算式を置いてみましたが、従来のFPが行ってきたようなライフプランニングは成り立たなくなっているというのが現実なのかもしれません。しかし、誰もそのことを指摘していないことが問題です。仮に将来のことはわからないとしても、現在の主に公共負担上昇という要因で、10年近く前に一般的だったライフプランに影を投げかけているという問題提起は行うべきです。
で、イタリアですか?これはSeijiさんの個人的な発想で、ハワイやニュージーランドもありなんでしょうね(物価が違うか?)。私は、日本人は日本での環境が一番快適になるはずだと思っていますので、最後はどこか?といえば日本だと思います。それも、都会ではなくて田舎です。何となくですが、疲れた人たちは田舎に帰っているような気がするのですが・・・。温暖化による台風被害が少し心配ですが、自然と共にあるような生活が幸せにつながるような気がします。
振り返って現実を見ると、日本政府は私たち国民生活の将来を真摯に考えているとは思えません(当事者が何と言おうが、結果的にそうです)。年金、税金、各種公共サービス等々。そういう意味では、日本を見捨てることも選択肢の一つですね。Seijiさんがイタリアを目指すというのは、そういうことではないですか?単に、今流行のロングステイをやろうとされてるだけではないでしょう(笑)。そうやって海外で暮らして、広い見識を持って「やはり日本に帰って日本を変えよう!」という発想もありえますね。
オフショアを活用する部分は、とてもSeijiさんらしい展開だと思います。ただ、すべての人ができる話ではないので、無理せず、お金がなくても生きていけるだけの知恵をみんなが身につけるときかもしれません。農業はその時の大事な選択肢です。
そういう意味でのFPって価値があると思うのですが、その仕事はきっと相当高度な技術や発想法その他が要求されるでしょうし、何よりも「人」として洗練されていることが必要です。お金にはならないかもしれませんが、もしそんなFPビジネスが成立したとき、それはもう今まで考えられてきた「FP」ではないのかもしれません。
2004年12月から証券取引法が改正され、銀行の店頭で株式が購入できるようになります。このように政府は個人マネーを証券市場に呼び込もうと躍起になっていますが、単に購入窓口を増やせば参加者が増えるというものではないでしょう。例えば、銀行で投信窓販が開始されて6年になりますが、投信残高に目立った伸びは見られません。反対に、金融資産を選択する上で家計のリスク回避指向はむしろ高まっています。FPとしてリスク資産への投資を勧めることに一定の意義はあるでしょうが、「貯蓄から投資へ」と声高に叫ぶ政府の意図を十分認識したうえで、「リスク商品のセールスありき」ではなく、まずは新たに投資家となる人々との認識ギャップを埋める努力をしていくことが求められています。
■元本確保商品のウエイトが高まる家計の金融資産

90年代以降、家計の金融資産(いわゆる「個人金融資産」)の選択行動では、リスクを極力回避しようという傾向が強まっています。図表1(右図 クリックすると拡大)に示した日銀の資金循環勘定の動きを見ると、個人金融資産の中で預貯金や年金・保険準備金といった元本確保商品の構成比が大きく上昇しています。その一方で、リスク資産である株式・出資金の比率は大幅に低下しています。また、債券は株式よりリスクが低いものの、同様に比率が低下しています。これは、90年代初頭の高金利で国債の購入が一時的に増え、その後、金利が低下して債券を保有するインセンティブが薄れていったという特殊事情があると推察されます。
なお、個人金融資産残高の動きを見ると、90年代は増加傾向(90年度1,035兆円→99年度1,425兆円)を辿りましたが、99年度にピークを打ち、その後は1,400兆円を挟んで一進一退の動きとなっています。ここにきて伸びが頭打ちとなっているのは、超低金利政策で預貯金など元本確保商品の利息分が増えないことや、高齢者層による貯蓄取り崩しが増えていることが影響しているようです。
■なぜ家計のリスク資産投資は増えないのか?
家計が金融資産を選択する上でリスク回避指向を強めている大きな理由は2つ考えられます。まず、個人金融資産を多く持っているのは高齢者層であり、高齢化に伴って元本確保商品への指向が高まっているということです。個人金融資産に占める株式・出資金(そのほとんどは株式ですが)の比率をみると、米国は日本の約4倍となっています。これは日本が人口減少期に突入しようとしているのに対し、米国は移民等によって人口増加が今後も続くという人口動態の違いが大きく影響しています。
もう1つ重要な点は、日本では家計の資産全体(実物資産と金融資産の合計)に占める実物資産(不動産)のウエイトが高いということです。図表2(右図 クリックすると拡大)に示した日米家計部門の資産構成比較によると、実物資産の比率は日本の方が一貫して高くなっています。このことは、日本の家計部門が実物資産への投資によって高いリスクを保有するため、金融資産への投資リスクを抑制することで資産全体のリスクをコントロールしているといえます。
さらに、日本の実物資産残高は地価下落によって90年代以降、減少が続いています。投資理論上、不動産の含み損が拡大する中では、金融資産への投資リスクを拡大できる状況にはないといえます。例えば、株式に投資した場合、保有株式の値上がりによって含み益が増えて初めて追加投資が行えるようになります。反対に、もし最初に投資した株式が値下がりして含み損が生じたとき、追加資金に余裕がなければ更なるリスクは取れないはずです。なぜなら、そこで追加投資して、再び失敗すると破産するリスクが極めて高くなるからです。このように、日本で個人が株式などリスク資産への投資を拡大するためには、現在保有している不動産の価格が下げ止まることが不可欠になります。
■政府が直接金融に個人マネーを誘導する狙いは何か?
ところで、政府は2002年8月に「証券市場の改革促進プログラム」を発表し、竹中大臣の「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、税制を含めたあの手この手の制度改正を行い、個人金融資産を株式市場へ誘導しようとしてきました。では、このような政策を進める政府の意図はどこにあるのでしょうか?国民が株式投資によって資産を増やして豊かになることを望んでいるのでしょうか?そうなれば税金も増えますし…。
しかし、政府の本当の思惑は違います。それは、バブル崩壊後の不良債権処理に関係しています。日本の不良債権処理がここまで長引いた原因は、間接金融偏重の金融システムにあります。つまり、日本では企業の資金調達手段が銀行借入一辺倒だったため、バブル崩壊の後始末がそっくり銀行の不良債権問題に置き換わってしまいました。その結果、資金仲介機能が麻痺して金融システム不安とデフレに陥り、経済の低迷が長期化してしまったのです。一方、直接金融が発達した米国では、バブル崩壊のツケは銀行だけでなく、株式・社債保有者といった証券市場参加者の間で広く浅く負担されたため、深刻な金融システム不安に陥ることなく、経済の低迷も一時的なもので済んできたのです。
さらに、米国の場合は海外投資家による有価証券保有比率が高いため、自国のバブルのツケを海外投資家に転嫁することによって、国内でのショックを和らげることができるのです。竹中大臣を筆頭に、今の政府はこのような米国流金融システムを目指しているのでしょう。したがって、個人マネーを株式市場に呼び込もうという政府の真の意図は、将来あらたな金融問題が発生した場合に、株式保有者である国民に株主責任を求めて、否応なしに金融・経済政策の失敗のツケを押し付けることにあるのではないでしょうか。
■これからのFPに求められる役割
FPとして、そういった政府の思惑にまんまと乗せられてよいものでしょうか?今の株式市場を見ると、ライブドアのような単なる錬金術としかいえない企業がマスコミでもてはやされ、そこに目先のキャピタルゲイン狙いで、個人投資家と称する人たちが群がっています。そんな市場に、今まで全く投資経験のなかった人がにわか仕込みで手を出しても、ひどい目に遭うだけかもしれません。
しかし、そもそも、株式投資というは単なる資金運用にとどまらず、株式による資金供給を通じて、世の中に役立つ企業をバックアップするという経済的役割を担っています。それが、ひいては日本の未来を明るくすることにつながるのです。新たに投資家となろうとする人々に、こうした株式投資の本来の役割を説明し、そして十分な理解を得ることが、FPにとってまず必要なことではないでしょうか。これは、回り道のようで、結局、顧客との長期的な信頼関係を築く近道になると思うのですが…。
日本のFPの歴史を振り返ってみると、その中心的なテーマが、税金→保険→投資(金融経済)と変化してきたような感じがします。 日本FP協会のHPには加藤理事長挨拶のところで、「ファイナンシャル・プランナーの基本的使命は、主に個人のライフプランに基づく最適な資産の形成と管理、そして効率的な運用プランをアドバイスすることにあります。」として、「今後ますます高度化するファイナンシャル・プランニング・ニーズに対応できるレベルの高いファイナンシャル・プランナーの育成に力を注ぎ、国民生活の向上に寄与していきたいと考えております。」と書かれていますが、米国での発想が日本の環境にどこまでなじむか?という点では非常に難しい問題があると今になって思うようになりました。確かに、悩める現代を乗り切るキーワードのひとつは「自立」でしょうが、一人一人が強くなるだけで世の中が良くなるとは思えません。問題はもっと複雑で根が深いような気がします。
話がややそれた感じで申し訳ありません。今回ご指摘のように、「貯蓄から投資へ」という日本政府のスローガンに単純に乗ってしまうことが、顧客を最優先に考えるべきFPの進むべき道ではないという点はまったく同感です。「投資」を否定するわけでは決してありません。生きていくためにお金はもっとも必要なものの一つです。しかしお金がすべてでないことも事実ですし、自分や家族の人生を幸せにするお金とは何か?ということもしっかり考えるべきだと思います。
レポートの最後はなかなか手厳しい意見ですが、FPにとって「お客様の幸福」が最終の目的であるなら、本当に高い人間性の下で厳しくプロフェッショナルの仕事を目指すべきですね。
2005年4月からペイオフが全面解禁されます。思い起こせば、当初は2003年度から全面解禁の予定だったのが2年間延期され、その間にりそなグループの国有化、足利銀行の破綻、そしてUFJの三菱東京グループへの統合と大きな出来事があり、結果的に延期の判断は正しかったのかもしれません。しかし、今では景気も上向きとなり、銀行の不良債権問題も峠を越えましたので、来年度からの全面解禁は間違いないところです。そこで、今回はペイオフ全面解禁で何がどう変わるか?――そのポイントを説明しましょう。
■預金等の保護の範囲はどう変わるか?
最初に、金融機関が破綻したときに預金保険で保護される範囲がどう変わるか、簡単に振り返っておきましょう。周知のとおり、2005年3月までは預金保険の対象となる預金等のうち、当座預金、普通預金、別段預金については全額が保護され、それ以外の定期預金等については1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等の合計額が保護されます。
これが、2005年4月以降は、預金保険の対象となっている預金等のうち、決済用預金(無利息、要求払い、決済サービスを提供できること、という3条件を満たす預金)に該当するものは全額保護となり、それ以外の預金等については1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1,000万円までとその利息等の合計額が保護されます。
そして、預金保険の対象となる預金等のうち決済用預金以外の預金等で元本1,000万円を超える部分および保険対象外の預金等ならびにこれらの利息等については、破綻金融機関の財産の状況に応じて支払われることになるため、一部カットされる可能性が出てくるのです。
なお、2003年4月以降、資金決済のために金融機関が一時的に預かっている資金で預金として処理されてない特定決済債務については、原則として全額保護されることとなっています。
■特定決済債務って何?
特定決済債務については預金保険法69条の2に規定されていますが、官僚特有の複雑な書き方で非常に判りづらい条文ですので、ここで解説を加えておきます。そもそも特定決済債務を永久的に全額保護しようということになった背景には、電気料金の代金収納を金融機関に委託している電力会社からの圧力があります。通常、電気料金は私たちの預金口座から自動引き落としされます。金融機関はその資金を一旦プールしておいて、毎月一定日に電力会社に支払います。このプールされた資金は金融機関にとって支払義務がある債務です。そこで法律上、特定決済債務と呼ぶことにしたわけです。
その資金を受け取る前に金融機関が破綻して回収できなくなることを心配した電力会社の間で、それなら共同で銀行を立ち上げて、そこで独占的に代金回収業務をやろうという構想が一時持ち上がりました。そのような動きを受けて、2003年4月から特定決済債務については永久的に全額保護するように預金保険法が改正されたわけです。なお、特定決済債務には電気、ガス、水道といった公共料金のほかにクレジット会社の利用代金等も含まれます。
■ペイオフ全面解禁で注目される決済用預金
従来からの預金商品のうち、前述した決済用預金の3つの要件を満たしているのは当座預金のみですが、来年春のペイオフ全面解禁を控えて、今秋以降、決済用預金の導入を発表する金融機関が増えてきそうです。最低限これら3要件を備えていれば、あとは金融機関が独自性を発揮して商品を開発することになります。どういった商品が決済用預金に該当するのか、そのイメージをつかんでいただくため、金融庁が公表したガイドラインに沿っていつくか例を示しておきましょう。
―無利息ということについて―
(質問) オプション付き預金のように「最初は付利しているが、半年後からは無利息になる」預金の場合、無利息になった時点から決済用預金とみなすことは可能か?
(回答) 結果的に無利息であったとしても、付利の可能性がある商品性を持つ預金については決済用預金には該当しない。
(質問) 全預金者に対して預金額と預入期間に応じて景品として金品が提供される場合、これらの景品付き預金は決済用預金の「利息が付されないもの」に当たるか?
(回答) 景品と称する金品であっても預金者に経済的利益を強く期待させるものは、社会通念上、利息と同一視できることから、決済用預金には該当しない。
(質問) 決済用預金を定期預金とセットにして、定期預金の利率を優遇しても、決済用預金は無利息であると考えてよいか?
(回答) 定期預金の利率については特に制限はない。
―決済サービス機能について―
(質問) 口座引き落とし等のサービスを実際に利用していることは、決済用預金の条件ではないと理解してよいか?
(回答) 商品として、決済サービスを提供できることが決済用預金の条件であり、実際の利用状況は問わない。
なお、個々の預金商品が決済用預金に当たるか否かについては、最終的には、預金保険法37条に基づいて各金融機関が預金保険機構に届出を行って、機構がその内容を確認することになります。
■ペイオフ全面解禁と金融市場
特定決済債務の全額保護と決済用預金の導入によって、ペイオフ全面解禁のインパクトは2年前に比べてかなり小さくなっています。定期性預金についてはすでにペイオフ対象となっていることから、全面解禁による資金シフトは流動性預金内での動き(他の流動性預金から決済用預金へのシフト)に留まりそうです。したがって、預金の平均預入期間は変わらないため金融機関の投資行動への影響は限定的で、これだけで金融市場が混乱する心配はないでしょう。それよりもFPの皆さんにとっては、金融機関が決済用預金導入とセットでどんな新しいサービスを提供してくるかチェックしておきましょう。
制度のことについて考える前に、あの大騒ぎからもう2年なんですね。時の流れに身を任せているつもりはありませんが、どうも結果的にそうなっているようで、1日1日を確実に、しっかりと生きていかねばならないと改めて思います。
そんな話はさておき、どこよりも早く(たぶん)ペイオフを取り上げていただきありがとうございます。UFJの再編問題、金融機能強化法の成立と来年4月に予定されるペイオフ解禁に向けて着々と準備が進んでいるという状況でしょうか?ただ、「粛々と」進められている準備に、私は余裕のようなものを感じることができません。金融は、アテネオリンピックと違い、器ができれば良いというものではないですし、本当の意味での国内の金融の安定化が望まれるところです。
で、そのペイオフですが、前回の経験もあり、あそこまで世の中もヒステリックになることはないかもしれませんが、「大事な預金をいかに守るか?」という視点が変わるわけではないですね。その中でも、新しく作られる決済用預金(「決済性預金」かと思っていましたが、「決済用預金」なんですね?)にまず注目すること。次に、金融商品における預金の位置づけを見直す時と考えるべきでしょう。税の世界でも、金融所得の一元化という名の下、「貯蓄から投資へ」を実現しようとしています。個人的には、ペイオフや税金対策という目的だけで、大事な金融資産を投資に回すことには反対ですが、これを機会に運用というものをしっかり勉強しなければならないタイミングにきていることは間違いなさそうです。
まだまだ暑い夏が続きます。政治も経済も金融も暑い夏が続きそうです。10年ほど前大変暑い夏の後、秋には大手金融機関の破綻が相次ぎました。仮にそのような事態になったとして、落ち着いて対処できるようにしっかりと準備しておきたいものです。どうぞ元気にお過ごし下さい。
債券市場で長期金利の上昇スピードが予想以上に速く、6月17日には1.94%と2000年9月7日以来、約3年9カ月ぶりの高水準をつけました。長期金利は住宅ローン金利などに影響するため、その動向を心配されている方が多いと思います。「果たして今後も金利上昇は続くのか?」――今回はマクロ的な視点から今後の長期金利を占うポイントを整理してみました。結論から申し上げますと上昇余地は限定的であって、今後1、2年の間に長期金利が2%台まで上がり、さらにその水準が定着する可能性は非常に低いと考えます。
■長期金利急上昇の背景
5月まで1.5%近辺で落ち着いていた長期金利は6月に入って上昇に転じました。急ピッチな上昇の背景には国内景気回復に伴ってデフレ脱却期待が高まってきたことがあります。実質GDP(年率)は2003年10−12月期7.3%、2004年1−3月期6.1%とバブル期以来の高い成長率を記録し、7月1日発表の日銀短観では景況感の大幅改善が予想されています。さらに米・英をはじめ海外先進国で金融引き締めに転換する動きが広がっています。
こういった動きが継続すればデフレからインフレへ転換する時期が早まるという期待感が市場関係者の間で高まるのも無理のないことかもしれません。しかし、マクロ的な視点から現在の経済環境を冷静に眺めてみると、2%を超えて長期金利が上昇する条件が整ってきたとはまだいえません。
■金利上昇を抑制する国内のお金の流れ
金利がさらに上昇する可能性は低いとする最大の理由は国内のお金の流れにあります。金利は基本的に資金の需要と供給のバランスによって決まります。つまり、金利が本格的に上昇するのは企業の資金需要が拡大し、銀行が貸出に回す原資を作るため債券を売却するとのいうのが典型的なケースです。しかし、こうした動きはしばらく本格化しそうにありません。
企業の設備投資は2002年後半から拡大に転じていますが、その一方で、企業は借入金を増やすのではなく逆に圧縮しています。ということは、企業はリストラによって拡大した収益(キャッシュ)の中から設備投資資金と借入金返済資金を賄っているのです。また、景気拡大の牽引役は大企業製造業ですが、彼らが収益を拡大しているのは主に海外市場(つまり輸出)です。そして残念ながら彼らにとって国内市場には有望な投資機会が少なく、借り入れを増やしてまで投資することには慎重なのです。
こうした傾向は貿易収支、経常収支の黒字拡大からも読み取れます。2003年度の経常黒字は17兆円に達し、17年ぶりに史上最高額を更新しました。好調な海外景気を背景に輸出が拡大する一方、国内需要は低調で輸入はあまり増えず、結果として貿易・経常黒字が拡大しているのです。そして、輸出で稼いだキャッシュの一部を投資と借入金返済に回す。それでも余ったキャッシュは増配で株主に還元するという流れになっています。輸出は不安定な海外景気に左右されることから、本格的な投資の拡大には慎重にならざるを得ないという面もあるでしょう。
■マスコミが騒ぐほど早くないデフレ脱却時期
次に、このところの金利上昇の材料とされている早期デフレ脱却期待の実現可能性について考えてみましょう。前回(5月7日)の本レポートで消費者物価上昇率がプラスに転じるにはまだかなり時間がかかるということを説明しました。その後、ガソリン価格が大きく上昇したこともあり、国内景気の拡大傾向と合わせて早期デフレ脱却期待が台頭しました。それと同時に、消費者物価がプラスに転じて日銀が量的緩和(ゼロ金利)政策を解除するタイミングが早まるという観測も高まりました。しかし、以下の理由によって、今のところ基本的考え方を変更する必要はないと考えています。
まず、今後の消費者物価上昇率については、再びマイナス幅が拡大する(つまり下落が続く)と予想されます。原油価格上昇の影響が心配されており、夏場にかけてガソリンなど石油製品価格にその影響が出てきます。しかし、従来なら原油価格上昇の影響を受けていた電気・ガスなどの公共料金は、規制緩和による価格競争の激化によって秋以降、逆に値下げされる予定になっています。したがって、原油価格上昇の影響は従来と比べてかなり小さくなりそうです。さらに昨年値上げされたタバコの影響がなくなり、また同じく昨年の冷夏の影響で高騰した米類の価格は今後下落すると予想されています。これらを総合すると、消費者物価の下落幅は今年後半に再び拡大すると考えるのが妥当でしょう。
将来的に消費者物価が上昇に転じるためには、企業が製品価格の値上げに踏み切れるだけの消費の力強い拡大と、それを可能にする雇用と賃金の回復が必要です。薄型テレビ、DVDレコーダー、デジカメといった家電製品が爆発的に売れていますが、これらは価格競争力が激しく、販売価格の下落に伴う売り上げと利益の減少を食い止めるため、メーカーは短期間のうちに次々と新製品を投入しなければならないというのが現状です。売れ行き好調な商品でもこういった状況ですから、それ以外の商品については推して知るべしでしょう。一方で、大企業と中小企業の賃金格差が拡大し、雇用者所得は全体として減少が続いています。こうしたことから今後1、2年の間に消費者物価が上昇に転じる可能性は低いと言えます。
■国債管理政策が失敗するリスク
このような経済環境を考えると、長期金利が2%を超えて上昇していく可能性が当面は低いことをご理解いただけると思います。しかし、そうはいっても相場のことですので、ちょっとした市場参加者の心理的変化によって、本来あるべき金利水準から大きく離れてしまう事態が起こりえることは十分想定しておく必要があります。
最近、量的緩和政策を解除する条件修正の議論が日銀内部でようやく始まっており、今後の動向に注意が必要です。また、参議院選挙後に具体化する郵貯民営化の行方も気になります。これらの動向次第では政府・日銀による国債管理政策に対する不信感が高まり、債券の投げ売りが出て長期金利が一時的に急騰するリスクシナリオも頭の片隅に置いておくべきでしょう。
FPとしては基本的な金利観を持ち、それをメインシナリオとしてお客様へのアドバイスをしながら、万が一メインシナリオが外れてリスクシナリオが実現したときにどんなアクションが取れるかということについて備えを怠らないようにしましょう。そうすることで顧客の安心感、信頼感がきっと高まることになるはずです。
債券市場に関する情報は以下のような証券会社のサイトで入手できます。
○ 大和証券SMBC「リサーチレポート」
http://www.j-plaza.or.jp/dir/Reception/research-s.html
○ UFJつばさ証券「マーケット千里眼」
http://www.ufj-tsubasa.co.jp/wholesale/ws_report/wsr_monthly/wsrm_senrigan/index.html
(その他の証券会社では、機関投資家向けに専用サイトを開設し、個人はアクセスできないようにしているケースが一般的です。)
なお、上記2社のように個人が閲覧できるサイトでも内容は基本的に機関投資家向けとなっております。したがって、日本経済新聞を読みこなせる程度の予備知識が必要となります。
今注目されている金利問題を取り上げていただき、さらに資料の収集方法まで掲載いただきありがとうございます。金利情報って一般的には入手が難しいところがありますね。が、株よりも金利が直接的に影響する場面は多いはずですからしっかり情報をキャッチして行動したいものです。
で、内容についてです。0%の底は這っていた金利が少しずつ頭を持ち上げつつあります。米国・中国などでも金融引き締めの傾向が見られ、国内でもいろいろな物価指数が上昇の気配を示して、日銀、財務省の幹部からもいろいろなコメントが新聞等に掲載されています。「国債暴落・・」のような書籍が売れてやや刺激的に取り上げられる機会が多いようですが、実体経済をもう少し冷静に見てみようということですね。上がり始めたことは事実とはいえ、ご指摘のように慌てふためく必要はないでしょう。足元をしっかり見て、対応するということですね。例えば、住宅ローンの返済計画などは、自分の収入を見ながら冷静に計画するなんていうのは当然のことで、当初から無理な計画を立てない。金利が上がったらどのように対応するか出来るだけ早く考えておく・・・ということは最低限必要でしょう。
ただ、これもご指摘のように実際に上がってしまった金利は国債はじめ多方面に大きな影響を与えます。国債価格の下落は免れないだけでなく、財政を大きく圧迫します。また、住宅ローン・事業ローンの金利上昇が経済面に与える影響も相当深刻なものになる可能性があります。年金で国民がかなり過敏になり、財政運営に対する不信感を深めている今だけに、政治家・官僚が真摯に対応すべき問題でしょう。実績からすると少し不安ですが・・・(笑)。
「デフレの脅威はもはや問題ではない。」――2004年4月20日、FRBのグリーンスパン議長は金融政策の軸足をインフレ対策に移すと宣言しました。また、中国の中央銀行である中国人民銀行は不動産などへの過剰投資を抑制するため、5月から利上げに踏み切ると報じられています。原油、鉄鋼、非鉄金属などが急騰しており、今後インフレ懸念が高まって日本を含めて世界的金利上昇局面に突入するのでしょうか?
しかし、よく観察してみると、金融引き締めにスタンスを転換した国々と日本では若干事情が違うようです。また、工業原材料を中心とした商品相場の上昇が、私たちが購入する製品価格の値上げにすぐにつながるわけでもなさそうです。今回はインフレの問題を通して金融マーケットの見方を整理してみましょう。
■インフレとは何か?その動きをどうチェックするか?
そもそもインフレとは、物価が全般的かつ持続的に上昇していく現象のことです。ここで物価とは一般物価、つまりモノやサービスの価格をいいます。一方、不動産や株式など資産の価格が上昇した場合は資産インフレと呼び、通常のインフレと区別します。モノやサービスの価格は、消費者物価指数、国内企業物価指数といった指標で評価されます。
消費者物価指数は私たちの生活費の指標となります。ある基準となる年に家計で購入した種々の商品を入れた大きな買物かごを考え、この買物かごと同じものを買いそろえるのに必要なお金がいくらになるかを指数の形で表します。現在は2000年を基準(100)として計算されます。ところで私たちの生活実感は、毎日買うものなどの値動きに引きずられがちですので、総合的な指数の動きとは食い違うケースがしばしばあります。
国内企業物価指数は企業が原材料や商品を仕入れる価格、つまり企業間で取引される商品価格の動きを表します。指数の対象となっている商品は910品目あり、それらの価格に、各々の重要度(ウェイト)を掛け合わせたものを集計して作成します。
なお、現実の物価はこれらの指数よりも0.5%〜2.0%ほど低いといわれています。というのは統計方式の問題から(効率的で安い)新製品やサービスが指数に反映されるまでには時間がかかるからです。このように、現行の物価指数はインフレの動きを把握するには不完全なものであることに注意が必要です。
■インフレ発生のプロセス
それでは、インフレはどのようなプロセスで発生するのでしょうか? 2004年3月の国内企業物価は3年8か月ぶりに前年同月比プラスに転じました。鉄鋼や非鉄金属などの素材価格が上昇したためです。しかし、こうした動きが消費者物価に波及するかというとそう簡単ではありません。消費者物価と企業物価の関係を単純化して数式にすると次のようになります。
消費者物価 ≒ 企業物価+人件費+企業利益
消費者物価 ≒ 製品の販売価格
企業物価 ≒ 原材料の仕入れ価格
企業のコスト ≒ 原材料の仕入れ価格+人件費
いまのところ、原材料価格(企業物価)が上昇しても製品の販売価格(消費者物価)の値上がりにはつながりにくくなっています。たとえば、自動車向け鋼板やデジタル家電部品である非鉄金属は需要が旺盛で、前年同月比2ケタの値上がりとなっています。ところが、私たちが購入する最終製品である自動車、パソコン、薄型テレビなどは価格競争が激しく、反対に値下がりしています。そのため企業はこれまでIT投資や中国などへの工場移転で人件費を引き下げてきました。
ところで、企業のコストの3分の2は人件費です。また原材料価格は変動しており、持続的に上昇するわけではありません。したがって今後インフレが発生するかどうかは人件費、正確に言うと単位当たり労働コストが上昇するかどうかにかかっています。単位当たり労働コストとは、ある1つの製品を製造するのにかかる1時間当たりの賃金のことです。今後、景気が拡大して消費が伸びてくれば製品価格を値上げしやすくなり、企業は増産のため雇用と時間外労働を増やし、その結果、単位当たり労働コストが上昇してインフレになる――というプロセスが予想されます。
このように、インフレが起こるためには個人消費の拡大が必要であり、日本でそうなるにはかなりの時間がかかりそうです。日銀が4月28日に発表した「経済・物価情勢の展望」も今年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)を前年比マイナス0.2%と、依然として水面下の動き予想しています。また、米国でも、グリーンスパン議長自身「デフレ終息宣言」をした翌日の議会証言でインフレ圧力がすぐに高まる環境にはないことを認めています。
■諸外国が利上げに向かう事情
では、差し迫ったインフレ圧力がないのに、なぜ米国ではこの夏にも利上げが行われようとしているのか?ひとつには原油高の悪影響をドル高で緩和しようという狙いがあります。米国はこれまで景気対策としてドル安を放置してきました。しかし、今やドル安は原油高(ガソリン価格の高騰)を増幅し、消費への悪影響が心配される事態となっています。そこで、米当局はドル金利の先高感を演出してドル安を修正しようと目論んでいるのです。
しかし、本質的な理由は先進諸国に共通する住宅価格バブルの問題です。世界的低金利によってより多くの家計が借入によって住宅を購入できるようになり、(日本とドイツを除く)先進諸国で住宅価格の急騰をもたらしました。その結果、住宅価格の所得に対する倍率は米国、オーストラリア、英国、アイルランド、オランダそしてスペインで過去最大水準に達しています。
このまま金融緩和を続ければバブルの拡大と崩壊を招き、再び世界的なデフレが到来しかねません。そうした事態を未然に防止するため英国やオーストラリアでは昨年から段階的な利上げを行っています。米国では大統領選挙を控えて、低金利政策を長引かせることで住宅投資を刺激してきましたが、その副作用が大きくなることから、ついに方針転換することになったのです。
一方、日本では大都市圏の一部を除いて不動産価格の下落が続き、世界的な住宅価格バブルの蚊帳の外に置かれています。そういう観点から考えると、米国が利上げに向かったとしても日本が追随することにはならないでしょう。
■日本の構造改革成功に不可欠な超低金利
また、日本の構造改革は道半ばです。大企業の債務処理が進展したことから株価は回復傾向にありますが、株価が映し出すのは日本経済の中のほんの一握りの勝ち組企業です。多くの企業は借金返済を続け、金融機関は依然として運用難です。さらに、国債の増発が続いており、その残高がどこでピークを打つのか目処はまったく立っていません。このような状況で日銀が利上げに踏み切れば、長期金利が上昇して企業収益を圧迫します。さらに、国の国債費も膨らんで景気に悪影響を与え、景気回復ムードは一気に吹き飛んでしまいます。こうした事情から、日銀が量的緩和政策を解除する時期はなかなか見えてこないのです。
短期金利はしばらく低位安定が続きますが、長期金利については米国市場との連動性が高いことから次第に金利上昇圧力がかかりそうです。長短金利差が拡大するため個人向け国債の投資パフォーマンスが向上しそうです。ただし、中期的な金利サイクルで考えると、構造改革の進捗状況から見て長期金利が本格的に上昇するのは早くても3〜5年先になりそうです。
株価については、中国の利上げが人民元の切り上げにつながるか、そして中国特需の落ち込みによって日本の輸出産業にどれくらい影響が出るかが今後のポイントとなりそうです。今、証券会社の店頭では中国株や中国株投信が大ブームとなっていますが、過去の経験則から高値掴みのリスクが高まっています。(私を含めて)ITバブル崩壊を見抜けずに失敗した方、今回こそ同じ轍を踏まないようにしましょう!
最近、マスコミがインフレについて報道する機会が多くなったような気がします。日本国内の景況感も改善が報じられており、原油や金の価格の上昇も見ながら、「やっぱりそうなのかな?」という印象でしたが、毎日の生活の中で消費価格が上がってびっくりという経験はまだありません。それはデフレが染み付いたというわけではなく、ご説明いただいたような複雑な背景があるということですね。理解しました。それともう一つ重要な視点は、日本経済の重要なパートナーである米国と中国。この2つの国の間で大きな経済的な変化が起きているということでしょうか。EUの正式加盟国も先日拡大しましたし、世界の大きな動きからは目が離せませんね。とにかく、今の新聞やテレビの報道を単純に読んではいけないということが良くわかりました。
で、次回ですが、その中国と拡大EUの経済をどう見るか?なんていかがでしょう?
2004年3月10日、物価連動国債が国内で初めて発行されました。一般的に国債はインフレに弱い、つまりインフレになると暴落すると考えられています。しかし、この新しい国債は元本が物価に連動して変動するため、インフレになってもその価値は目減りしません。こんなメリットのある商品なのですが、万が一デフレが続くと元本割れするという事情があるせいか(?)、財務省令による譲渡制限があり、個人や一般企業が直接購入することはできません。そのためFPの皆さんにとっては少しなじみが薄い商品かもしれませんが、将来の金利動向を考える上では重要な意味を持っています。そんな物価変動国債について今回は考えてみましょう。
■物価連動国債のしくみ
物価連動国債は、文字通り物価の変動に応じて元本や利息が変動する債券のことです。これまで30カ国以上で発行されており、いくつかの商品形態がありますが、「カナダ方式」と呼ばれるものが最も一般的で、日本もこのしくみを採用しています。「カナダ方式」には以下のような特徴があります。
日本では物価指数として、生鮮食料品を除く消費者物価指数を採用しています。生鮮食料品は天候などによって価格が大きく変動するため、これらを除いたほうが物価の傾向的な動きを見やすくなるからです。
なお、日本の物価連動国債は期間10年です。そして10年後の元本償還価格は、発行時と満期時の2時点の消費者物価指数の比率によって決まります。例えば、3月に発行された第1回債の場合、発行時の消費者物価指数は98でした。これから年率5%のインフレが続き10年後にこの指数が160になったとすれば、元本の償還価格(額面100円当たり)は160÷98×100=163円となります。つまり100万円で購入したものが10年後には163万円になる計算です。
(注)現在の消費者物価指数は2000年を100として計算されています。
■価格の動きとインフレ
では、物価連動国債の価格はどのように決まるのでしょうか?やや専門的な話になりますが、ファイナンスの世界では、金利とインフレは次のように関係付けられます。
名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率
実質金利というのは、物価水準が一定とした場合に、皆さんが事業に投資して利益を上げたときの利回り、つまり利益の投資元本に対する割合のことです。国全体で考えてみると、実質金利は経済の成熟度や人口増加率によって決まり、概ね実質GDPに等しくなります。他方、期待インフレ率は、将来のインフレに対する市場の予想値です。
ところで、固定利付国債の利回りは、将来の実質GDPとインフレを市場がどう予想するかによって決まります。したがって、名目金利とは固定利付国債の利回りに他なりません。一方、物価連動国債はインフレリスクがありません(期待インフレ率がゼロになる)ので、その利回りは実質金利、つまり将来の実質GDPの予想値と等しくなります。これらの関係を式にすると次のようになります。
固定利付国債の利回り = 将来の実質GDP予想値 + 期待インフレ率
将来の実質GDP予想値= 物価連動国債の利回り
固定利付国債の利回り − 物価連動国債の利回り = 期待インフレ率
第1回物価連動国債は、利率1.2%で応募者利回りが1.295%でした。応募者利回りが決定された時点の固定利付国債(10年)利回りは1.415%だったことから、その差0.120%が、市場が予想する今後10年間の期待インフレ率ということになります。将来の消費税率引き上げが確実なのにもかかわらす0.120%という低水準にあるということは、「デフレはかなり長期間続く」と債券市場が見ているということでしょう。仮に、今後、デフレからインフレに転じるとの期待が高まれば、固定利付国債と物価連動国債の利回り格差(価格差)は拡大することになります。
■金融、財政政策に与える影響
物価連動国債は今後の金融、財政政策に良い意味で影響を与えそうです。日銀は現在の量的緩和政策を「消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで継続する」と公約しています。ここでいう「安定的に」の意味を考えてみると、「過去数カ月の実績だけでなく将来に向けてもゼロ%を下回らない」ということだと思われます。そこで将来の物価動向を占ううえで、物価連動国債の利回りが示す期待インフレ率に大いに注目が集まることとなるでしょう。
また、物価連動国債の発行増加は政府が自らに財政規律を課すことになり、政府に対する市場の信任が高まると期待されます。固定利付国債の場合、もしハイパーインフレになると国債価格は下落して、政府の実質的な債務負担も減少します。しかし、物価連動国債の発行が増えた状況で急激なインフレになると、国債の元本が増加して政府の返済負担も拡大します。そのため、物価連動国債の増加は、財政健全化に向けた政府のインセンティブを高めることになります。その結果として、債券市場では財政破綻懸念が後退し、金利上昇が抑制されると期待されるのです。
■FPとして注目すべきポイント
物価連動国債の発行は日本の将来にとって、とりあえずは好ましい方向であると言えます。しかし、政府、財務省にそこまでの意識があるかどうかは疑問です。どちらかと言えば、大量に発行する国債を手っ取り早く消化するため、物価連動国債を導入したというのが本音かもしれません。今後、国債発行に占める物価連動国債の比率をどこまで高めていくのか?――政府がハイパーインフレによらずに財政赤字を解決しようという意思の強さを測るうえで、これがひとつのバロメータとなりそうです。
いつものことですが、わかりにくい時事テーマについて、見事にわかりやすく解説していただきありがとうございます。私が知る限り、日本で一番わかりやすい解説ですね。
さて、物価連動債については、注目度が高かった割に、マスコミにもあまり詳しい解説がありませんでした。ネットで検索しましたが同様です。もしそこに何らかの意図が隠されていてもいなくても、今回のような新しい金融商品については慎重に検討するのが鉄則です。で、この連動債の「連動」のポイントは、利子ではなく、元本部分が変動するわけですね。それから個人や一般企業には売却されないこと。これらの点は、恥ずかしながら、初めて知りました。もう一つ重要なのは、金利の考え方です。この部分はやや難解ですが、経済学的にも重要な部分だと思われますので、しっかり読んでいただきたいところです。財務省が最近解説を始めたプライマリーバランスの健全化についても同じようなことが言われているようです。http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm
最後の問題は、インフレです。私の自宅の近くにあるうどん屋さんの価格が4月1日から値上がりしました。かけの大盛り+トッピング×2=400円だったのが410円です。問題はうどん屋さんが値上げをせざるを得なかった理由です。店内の文書には明記されていませんでした。どうもその点が引っかかります。また、原油や金・タイヤ・鋼材などの商品市況でも値上がりが著しいようです。長く続いたデフレもこのあたりで終止符を打ち、インフレが始まるのでしょうか?また、その原因はやはりよく言われるように中国の影響でしょうか?今後、インフレをチェックするためには、どのような指標に気をつけるべきなのか?金融商品等の選択で注意しなければならないことはないのでしょうか?ぜひ解説をお願いいたします。
今年秋、20年ぶりに日銀券(お札)が刷新されます。昨年末現在の日銀券発行高は77兆円で、そのほとんどが新札に切り替わることになります。普段何気なく使っているお札ですが、この機会に、金融の中で果たす役割と価値、さらには財政赤字やインフレ問題との関係について考えてみましょう。
■お札が通用するワケ
お金は私たちの心を支配しています。それはお金持ちになりたいという欲望を持っているという意味ではなく、お札という紙片に過ぎないモノの通用価値を信じているということです。通貨発行権は国にあるので政府自身がお札を発行すれば、額面と発行コストの差額は発行差益として国の収入になるはずです。今回の新札の発行コストは約1,700億円なので、発行額のほぼすべてが収入となる計算になります。しかし、お札を増刷すれば、その信用度が低下してインフレになるため、政府に代わって中央銀行が紙幣を発行する形態が一般的です。
昨年12月に拘束されたイラクのフセイン元大統領は75万ドルのドル紙幣を所持していました。戦争で自国通貨の価値は紙屑同然になり、敵国通貨のドルに頼らなければならなくなったのは何とも皮肉なことです。ドル、ユーロ、円などのハード・カレンシーは世界中どこでも通用しますが、経済情勢が不安定な国の通貨は、他の国で缶ビールを買うこともできません。このように、通貨の価値はその国の経済力の象徴なのです。
通貨の価値は為替相場に反映されるといわれますが、それは物事の一面を見ているに過ぎません。なぜなら、為替レートは他通貨との交換価値、つまり相対的な価値だからです。日本に住んでいると円の価値は下がると思えるのに、実際の為替相場がドル安円高になっているのは、それ以上にドルの価値が下がると考えている人が多いからです。
■お札の流通と金融政策
日銀券は日銀が発行し、金融機関の窓口やATMを通じて世の中に流通します。日銀は毎月、銀行に対して国債の買いオペを実施し、金融機関が日銀に開設している当座預金口座に購入代金を振り込みます。銀行は、預金者の引き出しに応じるために保有する日銀券の残高が少なくなると、日銀当座預金を出金して現金を調達します。つまり、日銀の国債買いオペが最終的にはお札の流通増加につながるのです。
昨年末、九州の銀行で悪質メールをきっかけに預金者が窓口に殺到して、約500億円の現金が引き出される騒ぎがありました。こうした不安から現金を手元に置いておこうという動きが強まることでもお札の流通量は増えます。ただし、引き出された現金の大半はモノの購入には向かわず、家庭の金庫でタンス預金として眠ってしまいます。90年代後半から日銀券発行高が大幅に増えた結果、タンス預金残高は20兆円にも上っているようです。今回の新札切り替えにはタンス預金を再び金融市場に呼び込という思惑もあります。
ところで日銀が現在採用している量的緩和政策は、金融機関が保有する日銀当座預金の残高が減らないように目標水準を定める手法です。目標達成のため、日銀は銀行から国債などを買う代わりに、お金を当座預金に振り込みます。1月20日の追加金融緩和で、日銀は当座預金残高の誘導目標を30兆〜35兆円程度に引き上げました。しかし、これは銀行の手持ち資金であって、まだ世の中には流通していません。預金者が銀行から現金で引き出すか、企業が借り入れて資金決済に使うことによって、お金ははじめて世の中に流通することになります。このように、銀行から世の中に出て、家計や企業が保有するお金をマネーサプライと呼びます。
マネーサプライの範囲に何を含めるかについてはいろんな考え方があります。家計や企業が保有する現金(紙幣+貨幣)に普通預金などの流動性預金、さらには定期性預金とCD(譲渡性預金)を加えたものをM2+CDと呼びます。M2+CDは短期間で正確に集計できることからマネーサプライの代表的指標となっています。
■インフレ発生のメカニズム
ところで、インフレはモノの値段が上昇すること、つまりモノに対するお金の価値が低下することです。そこで、インフレは(1)モノの価値が上昇する (2)お金の価値が低下する――の2通りまたはその組み合わせで発生するといえます。(1)は景気拡大によって起こりますが、(2)は経済危機や戦争など突発的出来事がきっかけになることが多いようです。
景気がよくなり企業が利益を上げると、従業員の給料が増え、たくさんモノを買うようになります。企業・個人ともに手元にあるお金(マネーサプライ)が増えて、お金がたくさん世の中に出回るようになるのです。つまり、景気がよくなる→マネーサプライが増加する→モノの需要が増える→インフレになる――というプロセスをたどります。マネーサプライの増加ペースが加速すると、インフレ予防のため日銀が金融引締めに転じることになり