F&Aレポート
F&Aレポート 2021年10月10日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
「聞いていない」〜ホウレンソウの真の意味?
社会人の常識として一番に挙げられる「ホウレンソウ」。「ホウレンソウ」は「組織の血液」とも言われます。
「人間通」(谷沢永一著)は1995年に新潮選書として刊行されたやや古い本ですが、「聞いていない」ことがどれほど組織運営をこじらせるかということを、現代にも通じるユーモアや皮肉をこめて説かれています。僭越ですが私自身はこの著書を「コミュニケーションのバイブル」と崇めています。一部をご紹介します。
「聞いていない」
なんらかの組織に属する我が国びとが、猛然と腹を立てる最も普遍的な情景はなにか。決まりきった慣例がどこでも見られる。すなわち、それを私はまだ聞いていない、と怒りだす場面である。ひとりがこう開き直って異議の申し立てを始めると大抵の会議は二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなる。日本人は常に仲間のひとりとしての座を確保していなければ気が済まない。この場合の仲間とは情報を共有している関係であり、それを確認して安堵している自己満足が生甲斐なのであろうか。情報がいつもおのずから当方に達するのは自分が重んじられているからである。この俺様が承知していなければ何事も前へ進まないのだと自信を強めるためには、あちらこちらからしょっちゅう情報が耳打ちされていなければならない。誰かを最も痛切に苛める手立ては独りぼっちに追い込む措置であり、気の毒なその人は恐らく精神に変調をきたすであろう。
ゆえに我が国では会議の前に根回しが必要となる。そのためほとんどの会議は儀式でしかない。これは勝者と敗者をつくらないための欠くべからざる措置である。真剣勝負の討論に持ち込めば必ず誰かが敗者となる。簡単な義慈であっても負けたら怨む。そしてやる気を失う。協力しなくなる。仕事に齟齬をきたす。根回しは単に面子を立てるだけではない。その人の自覚を高めやる気を起こさせる手立てである。人を心の底から喜ばせる素晴らしい措置なのである。(「人間通」谷沢永一著 新潮選書)