F&Aレポート
F&Aレポート 2018年5月20日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
研修現場に潜む「ひとの成長ストーリー」
「ものづくり」の基本は「ひとづくり」です。人材育成研修は、まさに「ひとづくり」の現場です。教育現場である保育園や学校で日々多くの出来事があるように、研修の現場でもさまざまなドラマがあります。そのドラマの中に、ひとの成長や挫折、関わり合うことの難しさなど、多くの真実が隠れています。今回は、消極的で暗いイメージだった店長Sさんの「成長ストーリー」をご紹介します。
背景:広島市を中心に十数店舗を展開する酒屋さんの店長研修。店舗を運営するのは主に30〜50代の主婦(社員、パート)だが、ソムリエ資格や日本酒の専門知識を保有する者もいる。接客マナー、売上向上、部下育成などの研修を定期的に行う。そんな中、1個300円のプリン(日常の買い物で1個300円のプリンはやや高価なもの)を、1ヶ月で300個も売った店舗がありました。店長Sさんにその売り方を聞きました
店長Sさん「まず自分が買って食べてみて“美味しい”と思いました。それに、酒屋がプリンを扱うなんて“面白い”と思いました。この美味しさと面白さを伝えたくて、レジに来るお客様全員に声をかけてみようと決めました。『このプリン、召し上がりましたか?』『1回でいいから、是非、食べてみてください!騙されたと思って食べてみてください』『美味しいんです、本当に美味しいんです!』『酒屋でプリンですよ!?面白いでしょう!?』『うち、酒屋なんですよ、なのにプリンがあるんですよ!?』という感じで、全員に声をかけました。スタッフにもお願いして、レジに来るお客様全員に声をかけてもらいました。」
Sさんの口調には熱があり、表情は明るい。饒舌でイキイキとしています。店長Sさん「それからしばらくすると、買ってくださったお客様が『美味しかったよ』と言ってくださるようになって、最初は1個だけ買ったお客様も、『人に差し上げるから』とか『家族の分も』と言って、5〜6個買ってくださるようになった。そうなると、私もスタッフもすごく嬉しくなりました。」「それに、プリンを通じて会話をしているうちに、本来のお酒も買っていただいたり、お中元なんかの相談もしていただけるようになって、お客様とのつながりができました。」
店長Sさんは、それまで視線がやや下向きで、大人しいタイプで「店長として大丈夫なのかな?」と、時々心配になるほどでした。今回のことは大きな変化です。一緒に研修を受けた他の店長も刺激を受けて、「じゃあ、自分達の店でもやってみよう」という話しになりました。一人の変化が、売り場に活気をもたらし、なんだか楽しそうな雰囲気になっています。研修の空気をも変えてしまいました。
「言われたことを言われた通りにやる」仕事は、時に「やらされ仕事」になります。「やらされ仕事」には、心を込めることはできません。なぜ、それをするのかという意味も価値も見えなくなります。仕事の価値だけでなく、自分自身の価値を見失うことだってあります。「こんなことをして何になるんだろう」と。
もしかしたらSさんは、それまで「やらされ仕事」になっていたのかもしれません。でも、今は違います。「工夫することの楽しさ」や「やりがい」「手ごたえ」を日々感じながら、スタッフとともに汗を流しています。
「成功体験」が功を奏したのかもしれません。ただ、「成功体験」はたまたま得られた「結果」です。重要なのは「成功体験」の前の「主体的な行動」です。その「主体的な行動」は、「感情」や「情報」に基づいています。「感情」は、好きか嫌いか。心地よいと思うか、そうでないか。「情報」は、興味をそそり、知識や教養を豊かにし、考え方やものの見方を変えることもあります。ちなみにこのプリン、伊勢神宮外宮奉納品で、創業200年の老舗醸造元によって造られた糀が香る一品です。商品の価値を売り、お客様に共感してもらったという実感が、ひとを変えたというストーリーでした。